Gioco-24:剣呑では(あるいは、メタバース口伝/喧伝/ディメシィオーネ)
ピンチは……窮地に転じる……ッ!!
「……」
韻は踏んだけど、状況の芳しく無さはそれはそれはであったわけで。四方向から興味無さげに、しかして僕の一挙手一投足はフレーム単位で把握されているような、そんな居心地の悪すぎる視線を照射されながら、間抜けた挙動は即アウト直結が分かってる僕の方も相手の出方に細心の注意を向ける。能力「観察力はスカル」……状況が状況だったこともあってここまで「能力」も「デバッグ」もフル回転で使ってしまってたけど、流石の僕でもクールタイムはより長く取らないとになってたし、「能力の振り切れ方」というのだろうか、量・射角・速度全てが落ちてきている気がする……
「選ばせてあげるってのは?」
ふい、と言った感じで力の抜けた声が。右手前方向、金髪ギャル、アザミ氏……長椅子から立ち上がるとうぅんというちょっと鼻にかかった艶っぽい声と共に、細いけど柔らかそうな曲線を描く両腕を天へと突き伸ばしている……いでたちは「七曜」における決まりでもあるのか、でもデジヲは自由だよなぁ……セーラー服なんだけど、全部が真っ黒い、上下隈なく、スカーフまでも。その配色は違和感を与えてくるけど、襟元から伸びるすべらかな首筋、袖から覗く二の腕や、膝上十センチはありそうなスカートの裾から覗くおみ足はしっとり感とみっちり感を目に与えてくるほどの滑らかな褐色を呈していて僕の脈動に推進力を与えてくるのだけれどそれは能力とは別動隊なのであってぁああそういう「観察」をしてる場合じゃなぁぁあい……
「それともいっしょくたにくんずほぐれつが望みか?」
左後方からは落ち着いた感じながら、多分に吐息を混ざらせたややハスキーな声が。フチガミ氏……首を左右に曲げ伸ばしつつ、僕の視界へと気だるげにインしてくるけど、ごつい黒革のライダースジャケットの割り開かれた隙間からは光沢のある白色の薄いチューブトップに包まれたとんでもない体積を有した三分の四πアール三乗がふたつ鎮座しているものの常時xyz軸方向に反復運動を続けていてさらに想像もつかない柔らかさをも有してそうだから計算不能……!! 不能……!!
落ち着くんだ。なぜ僕はこうも揺さぶられることが多い……ッ!!
表面上の艶っぽさとは正反対に、この礼拝堂然とした大空間に満ちていくのは戦闘の雰囲気……でもないか、一方的な「狩り」というか「駆除」というか、そんな空気感。取りあえず静観気味の男性陣ふたりとは反対に、女性陣は僕に興味津々……というか、うん……実験動物を見る目だよね上からのそんな目線……だがそれもまた良い……
良くはない。
「……!!」
僕は殊更に大仰に、両腕を伸ばし、体の真ん前で手を組み親指と人差し指をぴんと立たせる。あくまで全指を組み合わせるように、片方を添えるように下にあてがうことは無いように。「デバッグ能力」の新たな可能性を切り開いてくれたと思われる、カガラ氏との戦いの中で開花した、「触れずとも干渉」できうる正にの無敵奥義……真っ当に考えて四人をまともに相手なんか出来るわけない。初弾一発、ぶちかますしか無いぞ、無いんだっ。
呼吸を一発、腹の底まで落とし込むと、僕は合わせた人差し指たちの先に、これでもかの「光球」を発現させる。バレーボール大くらい。白く眩く輝き、無駄に明滅を繰り返し……いやでも目を引いてしまうほどの。これが「
そう、流れを詠みて、自身を闇から救い上げる……「
……名付ける必要は無かったかと言うと、いや、ある。言語化することで確かに力はより具現化して力を増すのだから……これが言霊力……!! そして、
その裏で、実際には感知できない「デバッグ」を発現させる。これが今考えうる、最善の策。あやういけれど、迷うな。迷いは思考を鈍らせる。デバッグを最大限作動させるのならば、「普段」の思考だけじゃあ全然足りない。「思考の次元」が足りないよ、だから。
考えろ。思考のベクトルを、z軸方向に立ち上がらせるんだ。埒外の、方向から。
「……ッ!!」
明らかにこの場の雰囲気が変わる。少しづつ、ほんの少しづつ僕は、踵をにじらせ後ずさっていた。四人全員が射角に入るように。全員の意識をこちらに向けるために。
この「囮」を、囮と見極められていないヒトはこの場にはいないだろう。特にデジヲには端からお見通しを軽く通り越して、その裏の裏の裏まで対処法を構築されているかも知れない。
でも「見極めよう」という受け身体勢に持っていけたこと、それが最大の……
「……ンルェェイグゥァァアアアアンッ!!」
成功だ。この上ない巻き舌も奏功し、威力抜群そうに思われる白い光の光弾が、結構な速度で射出される。四人の、ど真ん中へと。
勿論それはデコイ。でもそうと知っていたとして、ここまで余裕かましている面子たちだ。「わざわざ避ける」なんてこと、心情的にやって来ない、いや、「出来ない」まであると見た。であれば。
「『重力はグラビティー』」
その艶やかな唇だけをわずかに動かすと、フチガミ氏の能力がふわと展開する。のたまった語句そのままの正にの「重力」が、おそらく局所的に、白光球のおそらくクリティカルな部分に刺さっている……ッ!! 「光」に干渉する「重力」? うぅぅん、やっぱり結構なやり手だよこの人らは。
そのままスキニータイトな黒ジーンズから伸びるこれでもかの高さの黒ピンヒールの爪先で、びくびく床に貼りつけられたまま蠢く光球を、苦も無く潰し消し去っていく。あっさりいなされた、その体。
それが、わざとらしくなく伝わっただろうか。その一呼吸前の瞬間、僕は「自分全部」を「この世界」から剥がしていて。
見失った、と思っててもらいたい。デジヲ辺りは瞬時に「目線」を切り替えては来るだろうけど、「瞬」の時間猶予はある。
そこに、全てを。
「……ッ!!」
何も無い、無重力の宇宙空間みたいなところを走る。「時間」まではどうとすることは出来ないみたいだ。だから思い切り「
戻る視界。僕の挙動を追えていた一名、は間合い的にも最遠だったからその手前の。
「……ッ!!」
髭面壮年にロックオン。予備知識としては知っていただろうけど、それと実際対応できるかどうかは別のはずだ。ミラーレンズの上の隙間から、驚愕に歪んだ目と目が合った。時には既に。
喉元を撫でるようにはするように手を薙ぎ払っている。剥がす、「言葉」を放つ器官の一部を。
刹那、衝撃で背後にひっくり返る壮年をも巻き込むことを辞さない威力で、僕の元へと「発現能力」の塊が飛んで来ている。二方向から。女性陣たちの対応もそれは疾い。でもそれはカガラ氏からラーニングした「
いよいよ枯渇し始めている。「能力」も「デバッグ」も。そして負担は全て僕の身体ひとつにかかって来ているようだ。オーバードライブ。オーバーヒート。この身体全体を包む痛熱い重苦しさを何と表現したらいいかは分からないけれど、何かを
この世界にも限界がある? 「容量」だとか。デバッグするにもそれの限界があったりするんだろうか。でも
腹をたるませたり引っ込めたりと、空気の出し入れに注力してしまっていた、その、
刹那、だった……
崩れた。身体を預けていた石壁が。ビルの発破解体のように、下の方から整然と。崩れている、んだけどその崩れ方は異常だ。静かに、砂粒のように細かく、分解? 溶解? しているようで。
<デバッグっテ言っても、まあ色々あるみたイだねェ。なァんか根本が違うような気もしテきたけど、ま、キミをマインドコントロールしてしまえば封じきれると見た。その前に粉吹きそうだね赤玉が出そうダね……やってごらンよ>
見切られているんだろうか。「僕のデバッグ」の全容を。そしてこれも「デバッグ」なのか? デジヲの。石壁を、バラバラにしてしまったこれは。
そこまで深く考えている暇は無さそうだ。察しの通り、僕は埒外からの感知干渉は出来るかも知れないけど、生身であることは確か。この世界の理も、「能力」の理も通じてしまう。なので「意識」をどうにかされるとどうしようも無い。わけでどうしよう。
……あと一発。それで残る御三方を何とかするしかない。無理感半端ないけれど、それしかもう無い。
自分の「デバッグ」について、おぼろげながら見えてきたイメージ。多分それは「次元」の違い。
この世界は二次元。プレイヤーは三次元。そしてデバッガーは四次元。
プレイヤーの「能力」が、この世界の人たちにはうまく干渉出来ないのは、例えば立方体で与えられたモノの一面にしか触れられないから、と表現したらいいか。確かに燃えているはずの炎を消せない。
その「ひとつ次元上」からの干渉の構図が、そのままデバッガーとプレイヤーの関係に当てはまるのでは、と考えている。
四次元は想像しづらいから一個落とすと、プレイヤーたちも、その放つ「能力」も、平面上xy軸上しか動けないとする。デバッグ能力はそれを三次元から見下ろすような感じで見て触って干渉できるのでは。
あたかも二次元で展開するビデオゲームを、三次元の人間がデバッグするかのように。いや、三次元の人間が、無理やり二次元の世界に入り込んで諸々やってるって感じかなぁ。うぅぅん完全理解がなったわけじゃあ無いけど、でも今はそれに頼るしか無い。
この世界だけは、
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