Gioco-23:非情では(あるいは、ブロワー/深世界的/木っ端ポルヴェリソッティリ)
清々しい夜明けからの清浄な空気満ちる早朝の、緑あふれる(青いけど)風景。でも、真逆なドロドロとした熱を発する汚泥のようなものに、僕の精神はどぶ漬けされていくようであり。相対する黄緑の像、デジヲ。こちらの出方を逐一待ってるのかな……三メートルくらいの距離を保ったまま、僕の目線と同じ高さくらいに浮遊しているけど。凪いでいる周りの空気とは裏腹に、僕の鳩尾辺りには、強烈なプレッシャーが押し込まれてきておる……
こいつは次元の違う敵さんだ、という認識は、全然ありがたくは無いものの、確かに僕の脳髄に刺し込まれては来ている。真杉くんも、カガラ氏も到達していなかった領域に、そう、「デバッグ」の
「……」
すんなり歩み寄って来たよ、僕の「デバッグ」も軽くいなし弾かれてしまったし、それと共に僕の持ちしアドバンテージとやらは軽く、いともたやすくどこぞへと霧散していってしまったようで。
どうすればいいんだ。それでも持っていかざるを得ないのか? 「デバッグ撃ち合い」という場に……でもとんでもないカオス同士での殴り合いへと……それ大袈裟では無く、世界を揺るがす戦いレベルに至ってしまうのでは……
ならば一旦引く。やっぱりその選択肢もあるのではないだろうか……逃げ腰、いや戦略的撤退と、言えなくもないだろうか……しかし、
<悪ィけっド、キミの『プレイヤーとしての履歴』は今この間ニ解析させてもらってッタヨ? 移動座標辿っていけバ、簡単に滞在していただろう『街』のォ!! 場所もオノズト分かルって寸法さァ、ハハん? キミが尻尾巻キするんだったら止めはしなイけどォ? あるいは、俺に解析されるってんナラ、そこは見逃してアゲてもいいけどねッてェ>
「解析」とやらを行わなくても、僕の思考は読まれているよな……そして改めて口に出した「街」、そう、ボッネキィ=マのことも俎上に上げてきやがった。デバッグ能力あるならその場所なんて簡単にハック出来そうとか思うけど違うな、僕が執着してるってことをお見通しの上での揺さぶりだよね……くそぅ、やっぱりもうやるやらないの逡巡をしてる場合じゃなぁぁい……
アズリィ、メッちゃんたちの顔が脳裏に浮かぶ。その笑顔、におい、息遣い……この奇妙な世界の中で、確かに「存在」する存在。それをゲーム感覚でおもちゃにしてやろうとしている「プレイヤー」の存在。僕が本当に「公式デバッガー」的存在なのならば。
創り変えるしかない。色々な意味で「オープン」であるワールドに。
「……」
肚は決まったけれど、それでもまだ逃げ腰逡巡の空気を出し続けることはやめない。読まれているだろうとしても、取り敢えずは「裏の裏」まではかくように持っていく。そこまで至れば、「裏の裏の裏の裏の……」って具合に、読みは蛇行暴走するだろうと、見越して。
僕の「銃」は、先ほど「紅蓮火球」を放った場所から動いていないはず。であれば今、僕がいる場所からは十一時方向に約三メートルくらいに転がっているはずだ。視界の片隅ギリギリの青い草むらに目をやる。「観察力はスカル」……その場所を、感知しろっ。
視界が「黒地に光る緑色のフレーム」で描画されていく。この意匠がね、多分に古いんだよね……ほんとに猫様の志向は所により謎だからな……まあいい。銃の場所は僕の現在地より北北西に三メートル七五センチ進んだ地面からゼロの位置にある。デジヲの立ち位置……「浮き位置」はそこからさらに南南西に一メートル二十センチ。隙を見て拾い上げてそれで弾込めて撃つ……? いや、ダメ過ぎる。あのグラサンには見た目からはそうは見えないけれど隙がまず無いし、さらに僕の拾ってからの動作数が多過ぎる。相手が引き金を引き絞っている最中に弾丸を込め直して狙い付けていざ発射……みたいなどうしようも無さだ。多分眉間に六発は喰らう。
ならばやはり「デバッグ」しかないのかなうぅん……もう思考の方は限界だ。さっきからどこへも着到できずにぐるんぐるん中空をブーメランのように自転しつつさらには滑らかに僕の周囲を公転しているようにも感じられるよでもそれでいい。
揺蕩わせろ。掴ませるな。「デバッグ」で唯一どうこう出来ないこと、それが「未来への思考」だと、そう思うから。息を大きく吸い込む。
デジヲに対して放たれたものには反応されるとして、別の物象に対してならどうだ? 次の瞬間、僕は伸ばす……「デバッグの腕」を。いくらデジヲでも、全部を全部、感知できるはずは無いッ!! ……そう思おう。現に僕も自分周りの極めて至近のことしか、「別ベクトル情報」は感知出来ていないから。自分で思ってても意味不明だけれど、この感覚は何とも説明は出来ない。
でも次の刹那、
「……ッ!!」
僕はこの手に「銃」を保持している。「弾丸」も六発全部を装填し終わったそれを。一度引き金を引いただけで全弾発射されるように仕込んだそれを、
撃ち放つ。防がれるだろう。けど、一瞬、「こっち」のベクトルに意識は向けざるを得ないはずだ。さらに僕は発射を終えたその拳銃を右手に握り締め、振りかぶってぶん投げる。デジヲのグラサンよ割れろとばかりに。
「馬鹿ガっ!!」
でも流石。六発色とりどり個性たっぷりの弾丸たちを、その緑の右手に現出させた、何だ? 弾力のあるボウリングの球くらいの玉で弾き返してきた。さらには一瞬硬直したものの、続けざまに空中を回転しながら飛んできた「銃」を、今度は左の素手でナイス掴み取っていたのだけれど。
馬鹿は承知。でも見たかったんだ確かめたかったんだ。「視点」を変える時には君でもほんの何フレームかのラグを要するってことを。オーケイ分かった、突っ込め!!
「『活力はファイヤー』ッ!!」
あえての叫びだ。僕の方に視界を向けさせる。「能力の視点」をあえて僕に。そして自分の方に向かって突っ込んでくる小太りの身体に気圧されたかい? それでも「能力」に切り替えて、潰すカウンターくらいは撃ち放ってくるだろう?
でも。
「……グぅっ」
その緑の顔が迫った瞬間、僕は左手に握り込んでいたこの「異世界」の土を一握り、横凪ぎにぶち撒いている。無論、実体じゃあないビジョンだからね、目つぶしってわけにはいかないけれどそれでも。
……目くらましにはなったはずだ。そして「視点」を「この世界」を見るベクトルへと変えさせられたはずだっ。
デジヲはそれでも自分に対して発動されてくる「能力」には防御網を張り巡らせているようだ。凄い集中力だよ、「二視点」。やっぱり「能力」は怖いよね……喰らうととんでもなく痛いしね……でも僕の狙いはそれじゃあない。
「!!」
デバッグ発動。僕の伸ばした手の、短い指先が、デジヲの上半身が突き出ているその土台、「ウインドウ」の端っこを掴んだ。そのままべろとめくりあげる。野郎ッ、と野卑さを出してきた御仁の現出させた「能力の剣」が僕の首元を掻っ切ろうと迫ってくるけど、それより速く。
「……なァッ!?」
確かにこの「窓」は、君が本当に「居る」場所へと繋がっているんだろう? それを読み取れれば。頭から、そのめくれた直角三角形の「隙間」に走り高跳びのような背面飛びで突っ込んでいく。繋がれ!! 繋がってろ!!
はたして。
「……」
身体の周囲を包んでいた「風景」がガラと変わる。やけに天井の高い……ここは屋内だろうか? 薄暗い中にほんのり光が差し込んで来ているけど、その色はまたもあの「光沢のある緑色」だ……四方を取り囲む石造りの壁には細長い窓のような空隙が切られていて、ひんやりとした空気が遥か高みまで満ちている。講堂……? あるいは教会……? そんな静謐さ。でもどことなく、
……禍々しい。
視線を回していくと正面、何段かの凄い幅広の段差があった。その上には何だろう、これでもかの黒々と光る金属的なもので出来ていると見られる「玉座」が鎮座していて。そこには予想通りでも無かったけれどまあいるよなと思っていた人影……赤いキャップ、ミラーサングラス、黒マスク。ゆったりサイズのオレンジのTシャツにタイトな黒パンツ。こちらもこれでもかのストリート系。
「……」
デジヲ(実体)……は手元の端末を覗き込んでいる体でリラックスしている感じだ。まるで僕がここにいないかのように。でも意識が向いていることは分かるよ。そういう意識的な無視って随分されてきたしね……僕に一杯食わされたことを、気にも留めないって、そんな風な空気を醸したいんだろう。
なら僕も少し呼吸を整えさせてもらうよ。禍々しさが起因するのが何か分かってきた。カガラ氏が言っていた「拠点」……なんだろうここは。そしてそれは。
「魔王」とかその辺りの……根城だ。つまりはラストダンジョン的なそれの、「最奥」、なんだろう。
図らずもその「最後の戦い」の場に移動してきた僕だったけれど、万事問題は無いよ。ガチのサシの勝負、ここまで逃げ道を封鎖されたんならもう真正面から戦ってやるっていう闘志が湧いてきたから。ぃよぉぉぉぉぉし、
と、呼吸を落ち着けた僕が、正面でまだ気怠そうに端末を弄ぶデジヲに向かい、決然と、人差し指を突き付け、宣戦布告の宣言をカマそうとした、
刹那、だった……
「あれぇ~自分から飛んで火に入ってくるなんてぇ、やっぱ規格外こいつぅ?」
高い天井に、反響する高い声。向かって右斜め前。整然と並べられた長椅子の背もたれに肘を突きながらこちらに向き直ってきた金髪ロングのギャル……その顔の下あたりにあの例の「白黒ウインドウ」がぽこと出てくるけど。そこに記された文字は、<日の七曜:
「いやいやいや、段取り考えといてくれないとぉデジヲちゃんよぉ、『デバッグ』はこういう興ざめが強いから嫌だったんだよねぇボクはぁ~」
左手には軽薄そうなパステルピンクのセーターをマントのように装備した茶髪髭面にこれまたミラーサングラスの壮年……<月の七曜:
「どうすんだ? ここから盛り上げる術があるんだったら聞いておこうか?」
詰問口調は僕の斜め左うしろ辺りから。首を十五度くらい振り向けてその声の主を確認すると、黒髪ショート、その下から覗く切れ長の瞳は何だろう、思わず目を逸らせてしまうのと覗き込みたくなる力を等分に有しているようで。細身に黒いライダースを羽織った女性……<金の七曜:
あっるぇ~、いや根城は根城なんだけどさぁ~、こんな一同に会してる場に、普通ノコっと現れます?
「……ま、ある意味『想定内』っテね」
いやぁ……そうだとしたらあかんよねていうかデジヲって苗字だったんだねいやいやいや……
<木の七曜:
っどうしようッ!?
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