Gioco-21:苦闘では(あるいは、思考&試行の最果て/駆けろクリフハグリンガー)

 必殺の間合い/タイミングで入ったかと思われた僕の「気力はヒート」の「最大火球弾」だったけど。


「『烏獲之力うかくのちからは』ッ!! ッ『ブリザード』ぉぁッ!!」


 咄嗟の判断。それは相変わらず正確であって、それは流石と思った。虚を突かれた素振りを見せていたのは本当に瞬で、カガラ氏の振り向きざまに放った能力は、先に僕の「銃」から時間差で放たれたモノと同じくらいの出力威力であるようにも見えた。それも「火球」全体を包み込むほどの、いや、視界全部を覆うくらいの範囲で荒れ狂うほどの「氷雪」。「瞬」で上昇した僕ら周りの空気が、また「瞬」で急降下したように感じた。な、なにぃ~、これに応対出来るなんてぇぇ……


 きっちり防がれたかと思われた。ただ、そのくらいはやって来るとは思っていた。


 だから。


「!?」


 知識としてはあったかも知れない。現に「これ」は真杉くんの使いこなしていた「技」だ。でも。流石に七曜の凄メンツとは言え、致死に関わるかもな「大技」をお互いに撃ち合ったりはしないよね? だから体感はしていない、と思った。なら「これ」も、いきなりは対処できないだろうと思った。それに賭けた。


「……『着弾点火』ッ!!」


 氷の乱気流に包まれ消失したかに見えた「火球」は、それでも視界が遮られていてそう見えていただけで、まるで「着弾」するまではあらゆる干渉を受けませんよ的、クソゲー物理を素知らぬ顔で貫き通すのであった。「氷の壁」を通過したその瞬間、僕はやらなくてもよかったのだけれど、突き出した右拳とさらに突き立てた親指というポーズから、勢いよくその親指を振り下ろす。人差し指第一関節にあるかのような、スイッチを押し込むように。刹那巻き起こる、視界全部を埋めてくるような大規模な爆発。悲鳴も残さずに、カガラ氏の長身は臙脂の炎に巻き込まれ、力無く、くずおれていく……


 ここまでやる必要は無かったかも……でもそこはもう割り切らないと。なまぬるい覚悟じゃダメだと思うから。徹するしかない、ないんだよ。ぐおんぐおんと周囲の酸素全部を巻き込んで立ち昇る炎の渦柱は、見上げる僕の胸奥にはひんやりとする何かを呈してくるけど。


 ……それより鎮火させないと。


 「能力」で起こした現象は、いずれ本当にこの世界の物理へと組み込まれていく。まばらとは言え、周囲には青々とした草葉や木々がある。延焼……それは避けなきゃだ。爆風により緩んでいた「氷の拘束」を消しつつほどくと、僕は未だ燃え盛る火柱の元へとガクガクになっている膝をだましだまし向かうのだけれど。


 刹那、だった……


「!?」


 渦の中で揺らめく影は、動きを見せていなかったから、ノー警戒だった。その内部から弾け飛んできたものに、一瞬対応が遅れた。避けれない防げないぃぃっ、とまた反射的に身体を縮こめてしまう悪い癖が出てしまった僕に、でも痛みとかの衝撃は襲ってこなかったわけで。


「……だいぶ、能力周りを習熟したんだなぁ。なかなかに、厄介な存在ってことは分かった」


 「渦」を突っ切って現れたその長身のシルエットからは、そんな、落ち着いた声。き、効いてなかった?


「……何かで読んだ知識がさぁ、どストレートに役に立ったぜ……それもまた、この世界の理、ってかぁ? 『空気を抱き込んだ泡を連続で発生させていけば、高熱の中でも生存/活動は可能』」


 「泡」。「読解力はバブル」の。その存在は知ってた。でもそんな応用が利くなんて……何が「切り捨てが早い」だ、よくよく能力の吟味をしていなかったのは僕の方だったよ……


 カガラ氏の体表周りには薄い黄緑色の、透明感のある「バリヤー」みたいなのが張り巡らされている。「バブル」。のたまった通り、それを発動させていたんだろう。「瞬」で炭化せしめる熱を遮り、消滅させられるそばから次々と新しいのを発現させて。


 そして今、僕の身体周りを包むのも「泡」。巨大なシャボン玉の中に入ってみよう的、子供の頃憧れた夏休み自由研究的な奴を追体験している感じではあるけど、当然そこに郷愁感とかは無い。


 「消す」能力を使うまでもなく、触れれば割れるのではと右腕を伸ばしてみるものの、まるで静電気で反発するかのように、「泡の膜」は一定の距離を保ったまま決して接触の一点には到達させてはくれなかった。慌てて無茶苦茶に両腕を振り回すようにまた踊るかのように全身をわやくちゃに動かしてみるものの。


 さわれない。


「……さっきのでも匂ってきてたが、なるほど? 『触れなければ消せない』のでは?」


 質問の体でいて、それは確信に満ちた光が、垂れているが鋭いというカガラ氏の両目に宿ったかのように見えた。まずぅい……悟られたぁ……彼我距離三メートルくらい。「掌で触ることでしか発動できない」ということが分かられてしまったのなら、対処の仕方はそれはいくらでも持ってるだろうでしょうよ。いかぁぁん……


「……『直感力はスプラッシュ』、の乱れ撃ち一丁」


 す、とその細長い左腕が水平に薙がれた。や否や、今や太陽も昇りきって明るくなった上空へ向けて小さな何か達が打ち上がっていったのが見えた。その数およそ、うぅん数えてる場合じゃなぁぁい……


 慌てて空転する脚を叱咤しつつその場から逃れる僕だけれど、「回避」は最悪の応手だった。そもそもカガラ氏が自信たっぷりに放ってきた攻撃……飛び道具じゃあないか、


 追尾性能ホーミングが付いてない方があり得ないだろっ。


「……!!」


 そしてその数。そもそも躱しきれるはずがないじゃあないの。天上から正に雨あられと降って来た「水滴」たちは、僕の身体を包む「バブル」を突き破ることは無く、中にいる僕だけに、これ痛点を正確に突いてきてんじゃないのと思わせるほどに痛烈に、「点打」の衝撃を隈なく与えてきてたわけで。がぁああ痛ぁぁあああ……ッ!!


 痛がってる場合じゃない。隙見せたら畳み込まれるって、いい加減悟れ!!


「……『胆力はハード』ッ!!」


 息を思い切り吸い込んで、気合を入れ直す。色々試した中で、即戦力になりそうだった「能力」……「胆力ハード」。その発現により僕の右拳は群青色に染まると、問答無用の硬度と威力を有していくわけで。遠隔攻撃には近接攻撃をっ、それってクソゲーのみならず、ゲームの「一般真理」、だよね?


 自分に言い聞かせるように、「そうあって当然」との認識を自分の中で強く持つ。それこそが、それこそがァッ!! この世界における「力」なのだからァッ!!


 意気込んで突っ込む。「活力ファイヤー」の高速ダッシュ力も加味しつつ。射程距離一メートル弱。ここまで詰められたのならッ!! 例えもう一発いまの「水滴群」を喰らわせられようともッ!! このままこの拳は振り抜かせてもらうだけだッ!! 決意を込めての一撃、しかし、


 刹那、だった……


 そんな、僕渾身の熱血を嘲笑うかのように、


「!?」


 撃ち抜いた拳が、「泡」の内部で、滑った。渾身のストレートの軌道は、下方向へと打ち下ろすようなベクトルへと変わってしまった。が、拳撃を外した、それだけだったのならまだしも、途端に走る右手首への激痛。


「『打属性』じゃあ破れねぇんだなぁ、これが……のみならず、てめえに反射リフレクするかのように返ってくる……様々なルールを把握しとかんと、多大な能力も持ち腐れだぜ?」


 これ折れたのでは? 患部を動かしてみようとするけど、それを先回りするかのように神経をしごくかのような痛みが貫く。さらにそこでバランスを崩した僕は、足底まで浸食していた「泡」に足底を取られ、中空にうつぶせ状態で一瞬浮くほどに派手にすっこけてしまうのだけれど。


「……ッ!!」


 右脇を地面に擦り付けながら、「泡」によるものか僕の身体はついーっと五メートルくらい滑りに滑ってしまう。起き上がろうにも自分の体表全部が摩擦度ゼロになったかのようにままならないぃぃやばぁぁぁあああ……


 パニクる間も無かった。


「『脚力はウェーブ』、の十六連弾、へいお待ち」


 完全に隙を晒した上に、仰臥状態から何も考えずに周りの状況も鑑みずに、取り敢えず上体を起こしてしまった。それが連鎖する悪手であって。後ろ手で何とか長めの草を束で掴めてそれにすがって座り状態に移行した瞬間、目の前で火花が弾けた。


「!!」


 起き抜けの一発。カガラの声の出処から判断して、これは少し高めの打点に調整したローキック? いやそんな分析いまどうでもいいって。左頬に強烈な衝撃。間合いは簡単に詰められていた。間抜けにも相手の着弾させやすいところに「はいどうぞ」と顔面を差し出したかたちになってしまった。


「オチるまでサンドバッグになってもらう。あとは拠点に運んで無理くり『解析』だぁ……目覚めたらどんな感じにキマってるかは分からないから、言っておこうかねぇ、『さようなら』を」


 右へ、左へと。両のこめかみ辺りに断続的に与えられる蹴撃は、だんだんと威力をも増してくるかのようで。ダメだ。ここまでか。思考がまとまらなくなってきてる。「能力」を何か出さなくちゃとか頭の別の所では促してくるものの、その使い方とかって、どう使えばいいんだっけもう思い出せない……


 せめて、あの「銃」があれば。何でもいいから無茶苦茶に詰め込んで、それでぶっ放せば何とかなりそうなのに、この「泡」の膜をも貫き突き破って……と、


「……何の真似だよぉ、そいつはぁ? キミの銃ならかなり向こうにほっぽかれたままじゃあないかぁ。あれあれとうとう来ちゃったかなぁこいつは。あんまり壊しすぎるなってデジヲに怒られそうだぞこいつはぁ」


 カガラ氏の呆れたような声と共に、衝撃の反復が止む。おそらく腫れあがりまくった顔の僕が、動く左手を何とか持ち上げて震えるその指先を向けたからだろう。立てた人差し指と親指が描く「Lの字」は、拳銃を模していて。自分でも何でそんなことをしたのかは分からなかった。ただこの指先から「弾丸」でも出て、それで目の前の人を吹っ飛ばしてくれたらなぁ、とかいう、


 滅裂な思考があっただけだった。でもその次の刹那、


 だった……


「ッ!!」


 一応の警戒姿勢と三歩くらいの間合いを取ったと思われたカガラ氏が、発作的に自分の首元を両手で抑えて驚愕の表情をしている様子が、糸状まで細められた視界の中に、確かに映ったわけで。んん?


 なん……だ、いったい……?

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