Gioco-20:激闘では(あるいは、感情迸り/昵懇入魂/ディスプレッツァーレ)

「ははっ、『拳銃』。この世界結構それ流通してるからなぁ。ただまぁ、そして装填されているのは単なる鉛玉じゃあ無いと」


 あっさりと。それはあっさりと評してきた。逆に図星という名の弾丸をいきなり眉間にヘッドショットされた感覚だ……ちょいと察しが良すぎませんかい?


 落ち着け。だとしても。


 「何が出るか」「どう出るか」までは絞り込めないはずだ。それに「能力」を無理から「弾丸」の形にクラフトしたんだ、僕の匙加減で。であれば百パー特定までは出来ない、と、うん、そうだと望ましいけどなあ……諸々察し、といういちばん厄介な能力を備えているのが、この七曜という面子とも思えるんだよなぁうまく攪乱できるかなぁ……いやいや。


 長髪を軽く風になびかせながら、カガラ氏は長細い両腕をだらりと降ろしたリラックス姿勢のままだ。けど、全方位において隙が無いようにしか見えない。やってこい態勢だ。見くびられる、侮られる、という相手からの主観デバフをかけられて初めて躍動するこの僕を、極めてフラットに見やっておられる……その上で見極めようと真摯に応対してくれておられる……何度も言うけど非常に、非常にやりにくいェ……


 が、このまま「防戦」|(と言うかそもそも一方的にやられてるだけだけど)一方でも道は開けない。撃つ。けど、ひとまずは一発。あえて初弾でその弾道とか属性を見極めさせた上、二発目以降がそれとは別物の弾丸であることを伏せつつ、そこで意表を突く。


 ……大丈夫だろうか。そんな相手の先入観に頼ってしまうような戦術で。ううぅん、「弾が全弾バラバラ」ってありがちかもなあ……選択肢のひとつとしてこの察しびとが考えてない可能性の方が低い気がするよ……


「生かして連れて来いってことだからまあ、それなりにはするけどさぁ。『痛み』は当然あるんだし、降参するってんのなら全然受け入れるよぉ?」


 出たなこちらを丸め込もうとする上からの言の葉。相変わらず、緊迫感の無い声質だよ。その割に纏ってる空気は張りつめていて例え「銃弾」を放ったところであっさり防がれてしまいそうだよ。でも、


 であれば更にの搦め手を使うほかは無い……ッ!!


「……ッ!!」


 次の瞬間、僕は何の溜めも無く初弾を撃ち放っている。「判断力はクイック弾」を。力みなく、何の脈絡も無く放てたと、思いたい。そしてそれはパシュといういささか迫力に欠ける発射音であったものの、その名に恥じない俊敏と思われる弾速で、僕と彼との間に横たわる約五メートルの距離を貫いて向かう、カガラ氏の、正にの眉間へと。しかし、


「『同心協力はフリーズ』」


 そこは読んでるよね……さしたる反応も見せずに、自分の顔面の前だけにこれまたありがちと思われる白と水色がマーブル模様にゆらぎ輝く「氷の盾」を現出……いとも容易くそれをはじき返すわけだけど。


 だけど。


 さらにその前に、僕は直接口頭で唱えていた。「活力はファイヤー」を。真杉くんも使っていた体が炎に包まれ高速移動するやーつを。そして銃を腰だめに構えた姿勢にて、カガラ氏に向かって左方向へと、ウォータースキーのように滑走するように低空飛翔していたわけで。そう、「同時発動」。それをも可能にし、ひとり時間差、いやさ、ひとり多角攻撃を可能にしたのが、


 この僕の、ツイナースピンドルスカイニングラバーズショット|(技名)だぁぁあああああッ!!


 弾丸の発射と共に、脳内にドバと昂揚物質が脈動しつつ放出される感覚、非常にいい感じにキマッたかと思われた視界の埒外からの色とりどりの四連射はでも、


「『斥力はツンドラ』」


 そっぽを向いたままで放たれたカガラ氏の詠唱と共に、凪ぎ払われるかのようにそれらはあっけなくはじき返されてしまった。ばかりでなく、びょうっという辺りの空気を巻き込む音と共に、


「……!!」


 跳ね返し……ッ!! 軌道・弾速・弾質、全てが違う四種を全て見切ってその反射角をも調整して跳ね返して来た……だと?


 無駄に冷静に脳内解説している場合じゃあなかった。カガラ氏の「跳ね返し」によりさらに軌道・弾速・着弾位置・タイミングを複雑化されたそれら、僕も知らない謎の弾丸しめて四発は、被弾硬直時間を考慮したかのようにフレーム単位での時差を伴って僕の頭頂部・右肩・左肘・左太腿部にそれぞれ撃ち込まれていたのであって。


 あぎょおおおおぉぉぉぉぉッ!! とのとんでもない叫び声は僕の声帯を伸び切らせんばかりに放たれていた。痛いねこれ。この「能力」っていうのはさ、神経に直に来る痛みだよね、それにこれは「観察力はスカル」かな、その名に負けずに骨というか骨髄まで痛みが浸透しておる気がするよねそういうの要らないんだよなぁぁあぁああ……


 四方から撃ち込まれた衝撃に、思わず万歳させられ腕は小気味よく捻りを繰り返し、膝は擦り合わせるように足踏みさせられてしまう。まずい、これ以上ない隙を晒してしまっているぅぅ……


「『度徳量力たくとくりょうりきはチルド』を、五人前一丁」


 そんな、阿波踊ピヨり状態の僕に向けて放たれるは、初っ端僕を一本釣りした例の「氷の鞭」。が何本も。何ィ、そんな風に連続同時で出せるんだぁあ、そしてそんな難しい読み方だったんだねへぇ、詰んだぁぁ……


 あっけなくまた首を、そしてプラス四肢を、ぐるり巻き取る冷たい感触と共にがちりと拘束されてしまった。ぬおおおそれだけで全身の動きがままならないぃぃぃ……声もまた封じられてしまっているわけで、「詠唱」も……ダメだ。変な呼吸音しか出ないよ。


 頼みの「銃」は……と歪む視界の中で確認すると、余裕の気の抜けた笑みを浮かべるカガラ氏の後方。の真っ青な下生えの中に落ち込んでいた。


「さあやってみなよ、あの『ちぎる』奴をさ。俺らも割と能力周りのことは習熟してた気になってたけどさぁ、あったんだなぁまだ未知の奴が。それともまた別の更新アップデートでもカマせられたかぁ? ま、あの猫ちゃん先生が何をやろうとこっちはそれに即応対応して粛々と適者生存を続けていくだけなんだけどねぇ」


 この余裕。そして「消す能力」なんだけど、発動させたいのは僕もやまやまであるんだけれど、うん、喰らった上で「掌」で対象に触れてないと出来ないみたいだ……暴発を避けるため? ある程度の「意思」を持ってやらないとダメっぽいねぇぇ、っていうことを全身拘束状態に陥った今、実感しているよ何で確認しとかなかったんだようぅんしもたぁぁぁああ……


 でも、そのことも悟られてはダメだ。もうこれ以上この御仁の着目している前で「消す」を発動するのはやばい気がしてきた。彼ら七曜に万が一その「発動機序」みたいなのが伝わってしまったら。


 最悪な気がした。


 彼ら自身が使えないにしろ、例えば僕がマインドコントロールまがいに操られた上でこの世界の何もかもを問答無用に消尽させまくる存在になってしまったら……? 自分で言うのも何だけど手に負えなさ過ぎるふぅぅ……いや、


 あがけ。絶対に守るって決めたはずだろ。頭によぎったふたりの少女の笑顔が、がんじがらめ状態の僕に、行動を起こすための「熱」をくれたように感じた。ぬおおおお、気合を入れろぉぉい……


「あ……あ……」


 こひゅーこひゅー音の合間に、僕は喋ろうという意思をまぶし、眼前のカガラ氏に目で訴える。コミュニケーション。キミらが過小評価してるだろうそれもまた、


 大事な「能力」。いや、大事なものと思っているから。例え相手が聞く耳持たなくても、悪意を存分に発していても。


「……何だい? 交渉には応じさせてもらうよ。ただ『能力』を発揮しようとした瞬間に素っ首は締まって詠唱は出来ないから、無駄なことはしない方がいいよという忠告だけはさせといてもらうよ?」


 何が交渉だ。「力」を盾に一方的に相手を意のままに誘導・強制することを、


「……」


 僕は、交渉とは呼ばない。断じてそれはコミュニケーションでも無いはずだっ。


「あ……お……の、『能力』は、い、今から発揮する、ひ、必要は、な、無いんだ……」


 声が掠れる。自分でもじれるほどの緩慢さだけど。それでいい。


「なるほどぉ? じゃあ別の『能力』でそいつを消した方がいいんじゃあないかい? やれるのなら、だけどね」


 食いついて来てくれた。ここに来て「侮り」デバフが掛かりつつあるよ、そうだよね、ここまで完膚無きままに叩き伏せてしまったのならばそういう思考の流れに行っちゃうよね……でも「やれるなら」っていうのはこっちの「消す」の発動制限を見透かしての発言とも思える。やっぱりこの察しマンとは最低限のやり取りのみで済ませなきゃだよ。


「さ……さっき五連発で撃った弾丸は、いくら、多角から放とうと、は、弾かれるとは思ってたんだ。で、でも『連発』したのは、い、『一撃』であなたに払わせるためでもあったんだ……そこで僕の攻撃は打ち止めだと、お、思わせられたらいいなって」


 僕は紡ぐ。精一杯の言葉を。カガラ氏は少し嘲笑うかのような表情を浮かべた。何言ってんだこいつ? みたいに。でも、


「なあ……悪かったよ、だいぶ脳に来ちゃってるみたいだなぁ、さ、まじゃあ俺の『愛牛』にタンデムして拠点に行こうじゃあないの。その未知能力の解析は、そういうの得意な奴がいるからそいつに、ってことで」


 「侮り」を……引き出せたっ。の、なら、ば……


――この「気力はヒート」って奴は、溜め時間がクソ長いんだよねえ……設定考えたヒトは何考えてたんだろうねえ……


 ……僕の勝ちだ。


「……『五』? 連発?」


 と、カガラ氏の表情に、初めて「怪訝」が宿ったと思った。流石の察し。でも辺りに響いていた「ピィィィ」という音は、今、気づいたのでは? パッと聴き、鳥が遠くで鳴いてるような感じだしねぇ。「取り回ししづらい能力」だから、早めに見限ってあまり「習熟」はしていなかったようだね。切り捨てが早いってのも良し悪しなんじゃあ……


 ないのかい?


 慌てて振り返ったその長髪の合間から、臙脂色の激しい明滅をしていた「銃」から、ひと一人呑み込むには充分に過ぎるほどの直径の、「紅蓮火球」が弾き出され来ていたのが見えた。


 六十秒最大マキシマム。会話は時に時間を稼ぐ術ともなりうる……ッ!!


「なっ……!!」


 「一撃炭化」ッ、焼尽ッ、貫けぁぁぁぁああああああああッ!!

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