Gioco-18:勃発では(あるいは、屹立インナープレジャディス/らららラシアンルーレット)
意気込みと不安と高揚とあと何かを孕んだまま、息切れを通り越して過呼吸経由の無呼吸に近い状態に至るまで一心不乱に「夜」に切り替わったフィールドを走りに走って、一息ついたのは体感二時間余りくらい経ったくらいだろうか。「
フィールド上においては、全くの埒外から
徐々に闇が、黒絵の具に水をどんどん薄め入れていくように薄らいでいってる。こういう
いや、その馬鹿でかい不毛大地であったからこそ今まで「七曜」らの目を避けてこれたのかも知れない。それにしてもここ一か月で少しは鍛えられたと思ってたけど、自らの脚での移動は結構きついな……気の利いた「乗り物」的なものがあれば……それこそ「原付」とか。でも慣れ親しんだモノ……「
ゲーム的なお約束じみたことならどんなに既視感があろうとも「実装」は容易なのに……じゃあ時速百六十キロくらいでカッ飛ぶ
そして「能力回復」が限りなく無理という状況下の僕は「残能力」をうまくやりくりしていく事も課せられている。幸い「戦闘」に使用できる能力って考えると、例のあの能力を弾丸化して撃ち出す
銃状のモノで魔法的な弾丸を撃ち出す、「研磨した能力にて悪を断つ武器」としてこの世界の言葉にて名付けた、この僕の頼れる相棒「
さらに僕に与えられた謎能力「消す」……こちらについても無制限に出来るというわけで無いことが確認できたわけで、そこもうまいことやりくりしていかないとだ。「制限」……それは一回発動ごとに次弾装填までの「クールタイム」を要するということ。その体感は、非常に下世話であることを承知で表現をすると「一発抜いた」後の虚無時間を経て再度臨戦状態になるまでの間くらいと判断した。すなわち一日に二十八発しか使えないということになる……ッ!!
さて。
僕を中心にして半径見渡す限りに漂う「海賊版感」というとやけにしっくりきてしまう空気を最早一体化しろぃくらいに潔く己の身体の奥深くまで取り込んだ僕は、目指す「目標」をいま一度「マップ画面」にて確認する。
いま現在場所より、最も近くに明滅する青い円。彼我距離およそ五十メートルまで接近した。「プレイヤー」だ。
「地図」はこの現在居るところの「大陸」の全景図と、自分周り約一キロちょいを表示する両極端なものしか創れなかったけど、それで充分と言えなくもなかった。全景……おそらくこの大陸がこの世界「唯一」の場であることが分かったし。外海内海あるものの、基本全てが地続き。そこがまたわざとらしい感じもするけど、「場」を特定できたのはありがたい。「七つの海と大陸を飛び回って」……とかになると流石に何年かかるか分からないし。コンパクト世界。それは望むところではある。でもそれにしても広いよな……いや、
集中だ、ここからは。
他プレイヤーを示すその青丸は先ほどから点灯してる場所に貼りついたまま移動する気配は見せてない。これが「七曜」であるかは分からないけど、手当たり次第に全員に接触していく。そうすれば辿り着くはずだ。情報とかも得られるかも知れないしね。「コミュニケーション」。キミらが放棄気味のその力を僕は存分に活用させてもらうよ。
と、意気込みつつ足音を殺した小走りでその目標地点に接近を始めた僕だったけれど、その、
刹那、だった……
ブー↓ウィー↑、ブー↓ウィー↑という、とんでもないブザーのような効果音のようなものが辺り一面にいきなり響き渡ったのであり。え何これ? とキョドる暇も与えられずに、
「……ッ!!」
首に巻き付いたのは、背中の全・産毛を逆立てさすほどの冷たさを持った何か。しなるような感触が頸静脈辺りに走ったかと思ったら次の瞬間、僕の決して軽くは無い身体が宙に浮いている。この問答無用な力……「能力」だッ。
「ほれぇ~、言った通りだったろぅ~? あの『空白地帯』、そこに何かあるんじゃね的なオレ推測……アザミちゃん~、賭けはオレの勝ちってことで、のちほどよろしく期待しておるよぉ~ってねぇ~」
僕の視界には、真っ青な葉の茂る見慣れない樹の下でくつろいだあぐらをかいた人影。いやに間延びする声だ。僕に向けられ掛けられているわけじゃあ無いが、その舐めくさった垂れ目は僕のこの吊られた、あるいは釣られたサマを見上げて鈍い光を放っている。くそ、待ち伏せ……罠はもう張られていた……ッ!!
<……まだそいつが真杉をやったとは限らないだろ>
不服そうな女性の声は、その横、蛍光緑色に光る「正方形」……宙に浮いている、これはまた「ウインドウ」だろう……から若干のノイズを持って響いてくる。その言葉……「真杉」という単語……それだけで、理解は出来た。「七曜」……勘づかれていた。その上で泳がされていた? 三十日も。もしくはそこまでウェイトを置かれてなかった眼中に無かった? 網にかかるまでは放っておけって? くそぉぉぉ……
「……いやいやアザミちゃん。見てみ? ただの小太りちゃんじゃあ無いようだよぉ?」
首に巻き付いていたのは「氷の何とか」だろう。知らない能力……迂闊にも喰らってしまった僕だったけれど喰らってしまえばそれは、
「……ッ」
消せる。遠慮なく頸動脈辺りを締め上げてきていたそのザイルのような紐状の「氷」を両手でひっつかんで何とか消滅させた僕は、既に二メートルくらい吊り上げられていたこともあり、いきなり支えを失ってしまってこれでもかの尻餅をついてしまうのだけれど。
<カガラ気をつけっテ、そのコ……殺さないように連れて帰ってきてヨ?」
またその人影の横に緑のウインドウ。金属質な声は何だ、神経に障る。アイサイ、デジヲ……と承諾みたいな返事を気怠く返し立ち上がった人影が、薄明かりの中、姿を現す。
「よぉーこそ新顔さん。いや、『
かなりの長身、を真杉くんも着ていた黒い革つなぎに包んでる。そしてかなりのうねる長髪。「人を食った」という形容がこれほど当てはまるのも珍しい日焼けして褐色の顔は、ひと目、こちらを引き込んできてしまいそうな「隙ありさ」だけれど。
隠しきれてないその不穏さ……もうやるしかないっ。
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