Gioco-16:号砲では(あるいは、幕を上げるは/昂然/クレアティヴォドーナー)

「『筋力は……ぼ、ボンバー』ッ!!」


 とは言え。


 万能能力を手に入れたと思った僕であったけど、実際、「三十一の能力」は例の「お手本」通りに当てはめていくことで発動できることが分かったのだけれど。真杉くんでさえ使いこなせていたのは四種か五種。こ、これは稀有なる能力者の誕生なのでは……と思うのは僕だけだろうか。そして、


「うおおおお、『直観力はスパーク』ッ!! 『洞察力はシャドー』!! ぬうううん、『発言力はマグネット』ぉぉんッ!!」


 いまいち、戦闘に適する能力に乏しいと思うのはこれもまた僕だけなのだろうか……


<創造力:188 記憶力:063 注意力:046

 直観力:090 観察力:052 分析力:055

 読解力:072 洞察力:034 判断力:039

 表現力:103 集中力:081 努力 :075

 成長力:130 気力 :042 活力 :032

 精力 :255 胆力 :063 魅力 :009

 筋力 :065 体力 :066 視力 :086

 聴力 :100 統率力:005 影響力:023

 発言力:012 説得力:018 演技力:110

 協力 :155 コミュ力010 女子力:001 …>


 改めて例のボードを眼前の宙に浮かばせつつ確認してみる。かろうじて「筋力」、くらいかなこう「戦闘」に繋げられるのって。うん……日常生活を送る分には必要アンド不可欠そうな能力が揃っているものの、他の諸々をどう「武器」として昇華していったらいいのか分からないェ……


 「スパーク」とか発動してみると、目の前に確かにパリと光の破裂するようなイメージがよぎるのは確か。そして「あれ何かこの柵右手前に少し傾いでいるああーああー少し埋まっている根本の部分が腐りかけているのか」的な、ちょっと脳がすらすらと「直観力」を発揮してくるという現象も実感した。


「……」


 でもそれでどうする。うぅん相手の攻撃を避けるとか防ぐとかそういう系なのかな……と言うか相変わらず難解アンド不親切なんだよなぁ……と、言うか……


 全く整合性とか考えてないんだろうなぁ……そもそもとあるノンフィクションからその症例を引っ張ってきちゃってるわけでしょ? 設定まるパクリで上手くいった前例というのを、僕は知らないんですが。そしてそんな中でも「気力」とか「威力」だとかを上手く「炎」というオーソドックスな「魔法」みたいなものに顕現させていた真杉くんはやはり流石だったと言うほかは無いよ……なるほど、使える能力を吟味した挙句のあの五、六種だったのかな……


 いや待てよ。


 「威力」とかあとあの「かいてんの何とか」って言ってた奴はこのオープニングステータスボードの一ページ目には載ってないぞ……そして「来野」の「脳内人格能力」はタイトルにもあるように「三十一個」……でもその倍以上の項目数が、次のページにはずらと並んでいるよね……んん? この残りは何由来なんだろう……? 改めて「二ページ目」を確認してみる。そこに何かしらの意図が含まれていないかを、「分析力はエレキ」の能力を軽く使ってみながら。


 しかし、だった……


<重力  :001 脚力  :044 持久力 :036

 動体視力:080 語学力 :022 角力  :055

 迫力  :008 目力  :009 烏獲之力:001

 機動力 :033 行動力 :021 兵力  :001

 背筋力 :108 意思能力:050 吸引力 :011

 武力  :019 同心協力:003 馬鹿力 :123

 出力  :075 思考力 :180 瞬発力 :045

 筆力  :199 走力  :035 理解力 :173

 指導力 :092 破壊力 :010 股肱之力:055

 応用力 :209 解像力 :002 竜象之力:002

 威力  :066 親和力 :073 耐久力 :187

 慣性力 :009 直感力 :122 記銘力 :098

 財力  :002 群策群力:002 腕力  :055

 表現力 :224 共心戮力:003 実行力 :032

 基礎力 :182 度徳量力:006 弾力  :087

 効力  :003 怪力  :141 不可抗力:009

 忍耐力 :221 握力  :078 精神力 :209

 求心力 :109 斥力  :003 廻天之力:004

 遠心力 :001 引張応力:004          >


 いやいやいや、こっちはもうちょっとネタが息切れを通り越して無呼吸気味になってきちゃってる感あるよね……。「力」さえ語尾につけば……ッ的な、でもそうまでしてこんな意味不明能力を無理くり列挙濫造する必要性が皆目見えないんだよ、やっぱり猫神様の見切りベタ踏み発車感がハンパないだけのように思えるよもう何か順番とかも秩序なくグダグダだしさぁ……


 流石にこちらの元ネタは分からなかった。どころか初めて見るそして読めない熟語も多い……


 うぅぅんこちらのページのはとりあえず置いておくのが吉と見たよ、既出であるところの「威力はグレネード」「廻天之力はトーチ」、その二つだけを頭に刻んで、残りは「キーワード」が分かったのならその時に利用法を考えていけばいいかぁ……


 とか、徐々に真顔になっていってしまう僕を見かねてか、少し離れたところでこの「修行」のような謎行動の逐一を眺めていたアズリィが興味深そうにその大きな瞳をくるくる動かしながらこちらに向かって駆けてくる。


「もし、トォーベ戦うのなら、銃、貸せる、お父さん言ってたよ」


 なんと。そしてなるほど。何も能力に全部頼る必要は無いのかな。真杉くんは「銃弾は自分には効かない」とかって言ってたけど、それが本当かどうかは分からない。確かに猟銃を構えたマスターとか、拳銃の群れに囲まれても、逆に圧倒していた。でも、実際に発射された弾丸に対してどうこうしたっていうことは無かった。それに敵は七曜だけでも無さそうだ。


 まず、町一歩出た「外」には蔓延ってるモンスター。しかも好戦的、というか捕食気配満々のね。護身のための銃装備……それは必要、いや必須かも知れない。


 と、そこまで考えた時だった。


「……!!」


 何か、頭の中に浮かぶ、もやもやとした得体の知れない雲のようなもの。これは……思考の澱……か? 乾坤一擲の光るアイデアを隠し包む。うぅんもどかしい……何とももどかしいけれど。でも。


 僕は知っている……だろ? それを霧散させる「能力」の名前を。


「……んんんんん、『創造力は、クラッシュ』だぁッ!!」


 多分にタメを作ってしまった。多分に外連味をカマせてしまった。そして多分に謎なポーズを取りつつ言い放ってしまった。後悔はしていない。


 何事かと目を丸くする小顔が宵闇に少しづつ包まれていく。視界は徐々にうっすら暗くなりつつあるけれど、僕の脳内は限りなく輝く光がギラギラと照らしていたわけで。


「アズリィ、拳銃を、えーと僕借りたい。あ、要らない弾、要らないで」


 「語学力」が発揮されればもっとマシに……流暢になるのだろうか。でも習い性というか「慣れ性」になってしまった大袈裟パントマイムが功を奏したか、了解ィエラとの鈴の音のようなかわいい声と笑顔の残像を置いて、少女は家の方へと走っていってくれた。


 そうだ考えるんだ。七曜も「能力」のことは詳細に調べているはずだ。まともにやってどうにかなる相手じゃあないはず。真杉くんレベルの猛者が五人……こちらはひとり。分は悪すぎるけど、それでもやり方はある。


 意表を、突くんだ。


 そのためには綿密な準備。そして反復した修練、で身体に叩き込む。頭で考えたら読まれる。意識を向けるだけで挙動は怪しくなってしまうだろうから。完全に自然に。込めた意図とかを読ませないようにナチュラルに。


「……」


 一分くらいで息を弾ませつつ戻って来てくれたアズリィから、中折れさせたままの拳銃リボルバーを受け取ると、もうすぐごはんだよ、と言いつつ付いてきたメッちゃんから不思議そうに見つめられたまま、僕は爆ぜさせる……自分の中のイマジネーションを……ッ!!


「……『記憶力はフラッシュ』『注意力はアイス』『直観力はスパーク』『表現力はエアー』『活力はファイヤー』『読解力はバブル』……」


 能力を発動させるワードを呟きつつ、僕はその言葉を弾倉にひとつづつ込めていくようにイメージを定めさせていく。この能力たちが、あたかも弾丸のように一発づつ装填されたと、そう想起するんだ……ッ!!


 刹那、だった……


「……!!」


 僕はおもむろに銃を両手で構えると、二人の少女に背を向けつつ、目の前に広がる小高い丘の斜面向けて引き金を引き絞っていく。銃口からは、思ってた通り、いや思い込んだ通りに、


「……!!」


 色とりどりの「弾丸」が連続射出されていったわけで。燃えるもの、凍るもの、光るもの、弾けるもの……


 この多様性、この意外性なら。意表を取れる……はずっ。


 急速に僕の中で高まっていく高揚感。うんうんうん……おおおおおッ、異世界王に、僕はなるッ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る