1月29日 「目的の場所に着くと、…(ジャン・ジオノ)

「目的の場所に着くと、かれは、土に鉄棒を打ちこんだ。こうして穴をつくり、ドングリを1粒入れ、土をかぶせた。ナラを植えたわけだ。ここは、あなたの土地ですか?とたずねると、いいや、とかれは答えた。じゃあ、だれの土地ですか?知らんね。村有地かもしれない。それとも、のん気な地主のものかな、と答えた。所有者が誰であるかなど、気にとめていないふうだった。かれは、ていねいに、ていねいに、100粒のドングリを植えた。


 昼食のあと、かれはふたたびドングリを植えはじめた。わたしはかなりしつこく、あれこれたずねたと思うが、かれは答えてくれた。3年まえから、この人気のない場所に、木を植えつづけている。植えた種子は10万粒。10万粒のうち、2万粒が発芽した。2万粒のうち、半分は育たないだろう。ノウサギやネズミが食べるか、われわれ人間には理解できない、神のお考えのせいだ。それまでなにもなかったこの場所に、残りの1万本のナラが育ちつつある。」


(略)


「自分の肉体と精神力だけをたよりに、たったひとりで、荒れ地からこの楽園を出現させたことを思えば、人間にあたえられた力は、やはりすばらしい。だが、この結果を得るには、かれは高潔であるだけでなく、粘り強かった。そして全力を投球して無私無欲のおこないをつづけた。こうしたことすべてを考えると、神のわざに匹敵する仕事をなしとげた、この学問もない老農夫に、わたしはおおきな敬意をいだいた。


 エルゼアール・ブフィエは、1947年、バノンの救貧院で、やすらかに亡くなった」


『木を植えたひと』 シャン・ジオノ著 福井美津子訳



この木を植えた人は、ジオノの創作だそうですが、人の起こす奇跡にはいつも圧倒されます、真実は小説より奇なり。


絵本なので、前者が20頁、後者が57ページからの引用です。少し離れていますが、合わせて味わっていただければ…。

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