1月7日 彼はふいにソーニャの言葉を…(ドストエフスキー)
新潮文庫版のドストエフスキー『罪と罰』からの引用です。クライマックスのところでもあります。訳者がちょっとあやふやです、すいません。メモから起こしています。
………
彼はふいにソーニャの言葉を思い出したのである。
《十字路へ行って、みんなにお辞儀をして、大地に接吻しなさい。だってあなたは大地に対して罪を犯したんですもの、それから世間の人々に向かって大声で〈私は人殺しです!〉と言いなさい》彼はこの言葉を思い出すと、わなわなとふるえだした。彼はこの間からずっとつづいてきた、特にこの数時間は激しかった出口のないさびしさと不安に、すっかりうちひしがれていたので、この新しい、そこなわれない充実した感じが出口になりそうな気がして、夢中でとびこんで行った。それは何かの発作のように不意に彼をおそって、心の中に火花がポチッと燃えたかと思うと、たちまち一面の火となって、すべてをのみつくしてしまった。彼の内部にしこっていたものが一時に柔らいで、どっと涙が溢れ出た。彼は立っていたそのままの姿勢で、いきなりぱたッと地面に倒れた…
彼は広場の中央にひざまずき、地面に頭をすりつけ、愉悦と幸福感にみちあふれて汚れた地面に接吻した。彼は立ち上がると、もう一度お辞儀をした。
(中略)
彼がセンナヤ広場で、左の方を向いて二度目に頭を地面にすりつけたとき、彼は五十歩ほどはなれたところに、ソーニャの姿を見た。彼女は木造のバラックの一つのかげにかくれていた。すると、彼女は彼の痛ましい行進にずうっとついて来たわけだ!ラスコーリニコフはその瞬間、はっきりと、ソーニャが永遠に彼のそばを離れないで、たとい地の果てであろうと、運命が彼を導くところへ、どこまでもついて来てくれることを感じ、そしてさとった。
『罪と罰』ドストエフスキー、工藤精一郎訳
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