1月8日 王子さまは、もう一度バラの花を(サン=テグジュペリ)

 王子さまは、もう一度バラの花を見にいきました。そして、こういいました。


「あんたたち、僕のバラの花とは、まるっきりちがうよ。それじゃ、ただ咲いているだけじゃないか。だあれも、あんたたちとは仲良くしなかったし、あんたたちのほうでも、だれとも仲よくしなかったんだからね。ぼくが初めて出くわした時分のキツネとおんなじさ。あのキツネは、はじめ、千万ものキツネとおんなじだった。だけど、いまじゃ、もうぼくの友だちになってるんだから、この世に一ぴきしかいないキツネなんだよ」


 そういわれて、バラの花たちは、たいそうきまりわるがりました。


「あんたたちは美しいけど、ただ咲いているだけなんだね。あんたたちのためには、死ぬ気になんかなれないよ。そりゃ、ぼくのバラの花も、なんでもなく、そばを通ってゆく人が見たら、あんたたちとおんなじ花だと思うかもしれない。だけどあの一輪の花が、ぼくには、あんたたちみんなよりも、たいせつなんだ。だって、ぼくが水をかけた花なんだからね。覆いガラスもかけてやったんだからね。ついたてで、風にあたらないようにしてやったんだからね。ケムシを ––– 二つ、三つはチョウになるように殺さずにおいたけど ––– 殺してやった花なんだからね。不平も聞いてやったし、じまん話も聞いてやったし、だまっているならいるで、時には、どうしたのだろうと、きき耳をたててやった花なんだからね。ぼくのものになった花なんだからね」


『星の王子さま』サン=テグジュペリ、内藤 濯 訳

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