1月6日 リンカーン大統領は、最高司令官の… (ドラッカー)
リンカーン大統領は、最高司令官の人選にあたって、グラント将軍の酒好きを参謀から注意されたとき、「銘柄がわかれば、他の将軍たちにも贈りなさい」といったという。ケンタッキーとイリノイの開拓地で育ったリンカーンは、飲酒の危険は十分に承知していた。しかし北軍の将軍の中で、常に勝利をもたらしてくれたのはグラントだった。事実、彼を最高司令官に任命したことが南北戦争の転換点となった。酒好きという弱みではなく、戦い上手という強みに基づいて司令官を選んだためにリンカーンの人事は成功した。
リンカーンは、失敗を重ねてこのことを学んだ。実は彼はグラントを選ぶ前、目立った弱みのない人間ばかりを将軍に任命していた。その結果、北軍は兵力および兵站においてはるかに優勢だったにもかかわらず、一八六一年から六四年にいたる三年間という長い間、不利な戦況を変えることができなかった。
これに対して南軍の指揮官リー将軍は、最初から強みに基づいて人を選んでいた。ストンウォール・ジャクソンをはじめリー将軍の部下である将官たちは、みな明らかに大きな弱みをもつ人だった。しかしリーはそのような弱みを無関係とした。
彼らの一人ひとりがそれぞれ強みをもっていた。リーガ利用し役にたたせたのがそれらの強みだった。その結果、リーが選んだ狭い分野で強みをもつ将軍たちが、リンカーンの当初任命していた可もなく不可もない将軍たちを何度も破った。
弱みに配慮して人事を行えば、うまくいったところで平凡な組織に終わる。完全な人間、強みだけの人を探したとしても、結局は平凡な組織をつくってしまう。
大きな強みをもつ者はほとんど常に大きな弱みを持つ。
『経営者の条件』 P・F・ドラッカー 訳 上田惇生
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