第83話 DJ龍司とくるくるおめめ

「どうやら、遂にお出ましのようね?」


 樹がそう言ったのと同時に、DJブースに一筋の光が差す。


 そして、そこには…。


 ド派手な赤いスーツを着た二センチくらいはあろう太いフレームのグラサン姿の男が不敵な笑みを浮かべ一人立っていた。


 身長は百七十センチくらいのスーツに隠れているが、体格は筋肉質で割とガッチリしている。


 ぴっちりとしたスーツを着ている為、余計にそれを強調しているように見えた。


 ド派手なBGMと共に登場した男は、金髪オールバック、全身身に着けているアクセサリーは金色に光っており、手にはゴツイ指輪を幾つも付け、首からは海外のラッパーが巻いている様な太いネックレスを引っ提げていた。


 バックモニターに映し出された姿で確認できたのだが、首から下げているネックレスのペンダントトップには、狼が遠吠えするようなポーズをモチーフにしたアクセサリーが付いていた。


 男はスポットライトの明かりに照らされて、DJブースに手を添えて、俯いたまま静かに佇んでいる。


 フロアの観客はその姿を目にすると、先程の歓声よりも更に大きな声を出し辺りには甲高い黄色い声援や、男性の力強い咆哮の様な叫び声が木霊する。


 テレビで見たことがある空港に有名人が来日した時や、ライブハウスの前でお気に入りのアイドルを出待ちする時のファン達の光景が一瞬目に浮かぶ。


 そして、男はマイクを手に取ると、そのまま備え付けのバカでかいスピーカーに向ける。


 キーンと耳障りなハウリング音がフロアに鳴り響くと、BGMが鳴りやみそれと同時に、あれだけ騒がしかった観客も一斉に口を閉ざし、壇上の男の一挙手一投足に注意を向け、皆彼の言葉を待っている。


 壇上の男はマイクを頭上高く掲げると、スポットライトが消灯し、辺りを闇が包み込む。


 静寂と闇の中、聞こえてくるのは空調のゴゴゴ…という機械音だけだ。


 生唾を飲み込み、今か今かと静寂が弾けるその瞬間を待っていると、スピーカーからけたたましい音が響きそして、遂にその瞬間が訪れる。


 Are you all ready for a great night with Bad Wolves?


 Ok, let's countdown!


 10...9...8...7...6...5...4...3...2...1...0


 Here we go!


 観客全員で声を揃えてカウントダウンすると、会場のボルテージは最高潮に達する。


 その瞬間にスポットライトが再び点灯したかと思えば、舞台装置のスモークや、天井からは金や銀の紙吹雪が散布され、観客全員が曲に合わせて縦に飛び跳ねていた。


「何というか、凄いな…」


 俺が横にいる樹達にそう言うと、樹は神妙な面持ちでDJブースを眺めている。


 敵の本拠地だというのに、呑気な事を言う俺を咎める事もせず、門倉さんはというとフロアの端っこで、ノリにノっている女の子ナンパして何やら談笑していた。


「門倉さんもか…いや、確かに気張っても仕方ないというより、この状況だと手が出せないのが現状だけどさ…」


「え、なんか言った四季ちゃん?」


 と、樹に言うが大音量で鳴り響くBGMにかき消されて殆ど聞こえていないみたいだった。


「いや、もういいや…とりあえず、今は目立たない様にしよう」


 と言って、ふと視線を下に向け、コンの様子を確認すると、コンは容赦なく降り注ぐ音の奔流と、先程から充満している淀みの匂いに完全に目を回してしまい、ダウンしていた。


「きゅー…!」


「お、おい、コン大丈夫か!?」


 しゃがみ込み、コンの身体を抱き起すとコンは何とか俺の胸元に捕まり、上体を起こす。


 そして、力なく俺の胸元を掴み耳元へ口を近づけて言う。


「…よ、淀みが、濃すぎる…それに、あの、中央に立っておる者…あやつ、持っておるぞ…」


 と、コンはか細い声で囁く様に言うが、音のせいで途切れ途切れにしか聞こえなかった。


「持ってる?仙狐水晶をか?」


 辛うじて聞こえた部分を復唱する様にコンに聞き返すと、コンはゆっくりと頷き、肯定する。


 やはり、あいつが持っているのか…と、ステージを一瞥すると、コンを抱えて立ち上がり、再び樹に声を掛ける。


「なあ、コンがやばそうだ…一度トイレかどっかに避難しようと思うのだが…樹?」


 そう言うと、樹は相変わらず眉間に皺を寄せてステージ上を凝視していたが、俺の声に気付いたのかこちらに視線を向けると、短く「そうね、そうしましょう」と、返して俺達は移動することにした。


「門倉さんは…いや、きっと何か情報を集めいているに違いない。俺達も俺達にできる事をしよう」


「ええ、そうね。とりあえず、コンちゃんの様子を見ながら慎重に行きましょう?」


「ああ、そうだな」


 と、互いに頷き合いとりあえずトイレを目指して移動することにした。


 バーカウンターの店員にお手洗いの場所を尋ねると、以外にもすんなり教えてくれて、トイレはステージの右脇の方の通路を奥の方へ行ったところにあるとの事だった。


 重低音鳴り響くホールの中、観客を掻き分け、目的地を目指す。


 熱狂する観客の中を移動するのは骨が折れたが、それでも何とか移動するとトイレのある通路は緑や赤や青といった怪しく輝く蛍光灯に照らされた通路の奥にあった。


 お世辞にも落ち着いた雰囲気とは言い難く、どこか怪しい裏路地に通じていると言われてもおかしくない、そんな雰囲気だった。


 あれだけ観客ひしめいていたホールとは打って変わって、通路はシーンとしており、フロアから漏れ出てくる音だけが伝わってきていた。


 トイレの横には二つ扉があり、一つは【STAFF ONLY】と書かれた扉、もう一つは倉庫だろうか?両開きの扉に金色の南京錠が掛かっていた。


 チラッとしか見えなかったが、鍵は最近つけられたのかまだ新しい様で、新品の金属特有の光沢がまだ残っていた。


「この鍵…まだ新しい…?というか、最近つけられたみたいだな…?」


「ホントだわ、何か隠している…というか、十中八九何かあるのはまちがいないのだけど…一体何があるのかしらね?」


 と、樹と話していると、俺に抱かれていたコンが目を覚ました様だ。


「う、うぅ…ぎもぢわるい…」


 ぺたんこの胸を押さえて、具合が悪そうだが少し顔色が良くなっている。


 通路には煙が入り込んでおらず、フロアよりは匂いは無い。


 多少はマシ、と言ったところだろうか?


 俺は心配になってコンに声を掛ける。


「大丈夫か…?」


「う、うむ…多少はマシになったのじゃ…じゃが…」


 と、コンは何かを言いたそうに顔をそむける。


「どうした?」


 俺が問いかけると、コンはピョンとおれの腕から飛び降りると、ブワっと全身の毛を逆立て、モフモフの尻尾や艶々の髪の毛も心なしか重力に逆らって宙を漂っている様に見える。


「お、おい、どうしたんだ…?」


「ぼさっとするな、誰かくるのじゃ!」


 と、コンがそう叫ぶと同時、【STAFF ONLY】と書かれた扉が開かれ、そこに立っていたのは…。


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