第81話 たこやき大福とねぼすけ土地神

 謎の食べ物たこやき大福なる寝言を口から漏らし、呑気に眠りこけているコンは、相変わらず幸せそうな寝顔をしていたのだが、ここに置いていくわけにもいかないので、俺はコンの肩をゆすり覚醒を促す。


「おい、コン…着いたぞ…おい、起きろ!」


「うぅ…まつのじゃぁ…にげるな~たこやき大福ぅ~!」


「だから、たこやき大福って何だよ!?」


 と、コンにツッコミを入れつつ、今度はもう少し強めにもう一度身体をゆすってやると、コンは間抜けな声を上げて漸くお目覚めの様だった。


「お~き~…ろ~!」


「わぷっ!ふぁふぃふるふぉひゃ何するのじゃ!」


「ようやくお目覚めか、おはよう寝坊助!ほら、着いたぞさっさと乗り込むぞ?」


 と、コンに到着したことを伝えると、コンは辺りを二度、三度と見渡してみると、一度身震いしてムッと口を引き結ぶと、神妙な面持ちでこちらを覗き込む。


「そうか…、少し待て…」


「ん、どうした?」


 そう言って、コンは目を瞑るとその小さい手を合わせて、何やらむにゃむにゃとつぶやきながら、最後にパンッと掌を合わせて擦ると、コクリと頷き口を開く。


「よし、これでよいのじゃ…」


「今のは?」


 気になって尋ねてみると、コンは人差し指を合わせて俯き、少し照れくさそうに説明してくれた。


「その…一応、魔除け?的な…?」


「魔除け?」


「うむ…」


 コン曰く、こういうことらしい。


「さっきからここは外だというのに、咽返る程の淀みの気配が充満しておるからの?本当に少しだけだが、主らにも神の加護的な物を授けておるのじゃ」


「へー…それはすごいわね?で、どういう効能があるのかしら?コンちゃんの加護だと良い事ありそうじゃない?」


「私も気になりますな?」


 と、話を聞いていた樹と、門倉さんも身を乗り出して聞いて来る。


 するとコンの声は消え入りそうなほどに小さく、蚊の鳴く声の様にどんどん小さくなっていくのだが…。


「その…う、うまくできてるかどうかは、分からないし…その、まだ未熟じゃから…そんなに効果はあるかどうか分からんのじゃが…その…多少の淀みに惑わされず、悪意に引っ張られないようにはなっておる…はずじゃ」


 消え入りそうな程小さな声だったので、辛うじて聞こえた引っ張るの辺りを何とか拾って、俺はコンに問いかける。


「淀みってのは腕とかを引っ張って来るモンなのか?」


 俺が思わずそう問いかけると、コンがすかさず俺の頭をぺチンとその小さな手で叩く。


「はぁー…」と、掌に息を吐き、キュッと拳を握ると、コンは若干呆れた様子で首を傾げて言う。


「そうではないっ!…ったく、話は最後まで聞くのじゃ…!」


「いてっ…!」


 一度言葉を区切って、顔を上げたコンは俺の方をまっすぐに見据えて言う。


「心の弱い人間というのはどうしても淀みの強い悪意に触れると、暗い気持ちに引きずり込まれたりするのじゃが、今ワシの加護を授けたから…その、中に入っても主らなら絶対に大丈夫、なのじゃ!」


 ぴくぴくと耳を揺らし、ドンッとその薄い胸を叩いてコンは宣言すると、ドヤ顔でそう宣言する。


 まあ、ドヤ顔でそういうって事はそこそこの自信はあるのだろう。


 神の加護とやらが一体どう作用するのかは不明だが、まあ、授けてくれたものはありがたく享受しておこう。


「まあ、中には入れば分かると思うのじゃ…そう言えば、お主は一度入ったのじゃろう?中の様子はどうじゃった?こう、空気が重いとか、お化けが出そうとか…そういうのは何か感じなかったかの?」


 と、コンが門倉さんに尋ねると、門倉さんは顎に手を当てて首を傾げて言う。


「ふむ…何といいますか、戦場とはまた違った空気感がありましたな。オカルト的な物は私信じておりませんが、空気が重い、といわれますと…まあ、元々廃墟なぞ陰気臭い所ではありますので気にしてはおりませんでしたが…言われてみれば確かにそうかもしれませんな」


「さようか、お主は元々耐性があったのかもしれぬの…まあ、お主の場合はちと特殊かもしれんがの?」


「まあ、この年まで生きていれば、私の方が魑魅魍魎の方へ足を踏み入れているかもしれませんから、そう言ったものには鈍感になっているのかもしれませんね。それより…」


 と、門倉さんはコンとのやり取りを切り上げると、一度咳払いをして車を降りる。


「それでは皆様行きましょうか。中は暗くなっていますので、一度夜目に慣れてから進みます。明かりは消していきますので、準備が出来たら行きましょう」


 こういう所は流石だ。


 暗闇の中を進まずに、明かりを点けて進めばいいと思うのはそれは素人の考えで、敢えて明かりは付けず、暗闇の中を進む辺り流石だ。


 まだ夜目に慣れていない俺は、周りが真っ暗にしか見えなかったのだが、門倉さんはもう慣れている様で、準備万端らしい。


 五分ほどして皆が夜目に慣れた頃、俺が合図すると樹も頷きコンも気合十分、胸の前でぐっと握りこぶしを作り、フンスフンスと息巻いている。


 尻尾や耳も、ピクピクと小刻みに揺れており、見た目からもやる気が伝わって来た。


「じゃあ、行くぞ!」


「おー…なのじゃ!」


「ほほほ、隠密行動故皆様外に出たらお静かに頼みますぞ?」


 と、やんわり門倉さんに注意されると、コンは頬を赤らめ小声で控えめに「おー…!」と、言いなおしていた。


 全員で車の外へ出ると、今度こそ潜入開始だ。


 外の空気はひんやりとどこか冷たく感じるが、ドクドクと脈が速く、緊張からくる高揚感で体温が上がっていたので、丁度よい。


 ぶるっと一度身震いすると、樹が肩に手を置いて親指を立ててニコリとほほ笑む。


「大丈夫よ、落ち着いて行きましょう?」


 と、ナイスな笑顔で言ってくれたので、緊張感が少しはほぐれた気がした。


 こういう気遣いは樹に感謝だな。


「おう…」


 と、短く返し声には出さなかったが、樹に心の中で感謝を述べると、門倉さんが入口の方に立って待っていて、そちらに手招きしてくる。


「では、そろそろ行きましょう。皆様、私に着いて来てくださいな」


 門倉さんの指示に従い、ぞろぞろと門倉さんの所へ集まる。


 ガラスの扉には黒のスモークフィルムが張られていて、中の様子を伺う事は出来なかったが、門倉さんは全員が揃ったことを確認すると、躊躇うことなく扉を押し込む。


「それでは、皆様参りましょうか」


 門倉さんがそう言うと、古いガラス製の押し扉は劣化しているにも関わらず、音も立てずスッと開く。


 そこはまるで闇が手招きしている様な、そんな錯覚を覚えてしまう程不気味だった。


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