第13話 えもえもとスイカと線香花火(2) ※
こちらにイラストがありますので、見て頂けるとイメージ掴みやすいかもです!
差分が纏めて張れないので一枚ずつ別ページになってますが、とても可愛いので見て頂けると幸いです!(*´ω`*)
https://kakuyomu.jp/users/yayaya8901/news/16817139554538773005
https://kakuyomu.jp/users/yayaya8901/news/16817139554538806486
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花火の〆は大体線香花火だ。
派手さや華やかさこそないが、淡く光るその輝きや、終わりの瞬間の切なさが何とも言えず、地味だけど俺はそれが好きだ。
昔まだ幼かった頃に、家族や友人と一緒にやった花火の最期に、誰が一番長く線香花火を続けられるかで競争したり、一気にまとめて燃やして瞬殺したり、と楽しかった記憶がある。
多分、そういう思いで補正も多少あるかもしれないが、その記憶が蘇り、今でも線香花火が好きなのはそういう理由かもしれない。
「あ、そうそう、上手上手!ゆっくり、ゆっくりよコンちゃん!」
樹の言う通りに蝋燭で火を付けると、最初は燃える一本の筋だった線が、徐徐に丸みを帯びていく。
「おお!…こうか?」
右手でそれを持ち、揺らさないようにしっかりと固定して、じーっとそれを見つめるコン。
チリチリと火薬の焼ける匂いと赤い火の玉が出来ると、次いでパチパチと赤い火花をまき散らしながら火の玉は徐々に大きさを増していく。
「なんだか…その、儚いが…綺麗じゃ…」
コンはその光の
淡く光る蝋燭の優しい色味と、橙色の線香花火の明かりが合わさって、コンや樹の顔を照らす。
不覚にも、伏し目がちに花火へと視線を向けるコンの姿は、とても神秘的で、何より綺麗だと、心底思えた。
「そうねぇ~…線香花火ってなんか沁みるというか…エモいわよね」
樹もコンの隣で線香花火に火を付ける。
パチパチと弾ける火薬の音と光を二人で眺めていて、夏の夜の静けさも相まって何とも言えない雰囲気だ。
「えもい?」
聞きなれない単語にコンは首を傾げ、オウム返しの様に樹に聞き返す。
「情緒があるって事よ」
と、樹は左手の人差し指を立てるとパチンとウィンクをしながら答えた。
「ん~?」
と、よく分かっていない様子で、コンは目を丸くして首を傾げていた。
言いえて妙だが確かに、こういうのをエモいと言うのだろうか?
エモーショナル…情緒的とか感情的とかそういう意味だった気がするが、今確かにこの場面だけ見れば情緒的であり、エモいであっているかもしれない。
「良く分からんが…その、何となくわかるぞ!」
何となくニュアンスは伝わったみたいで、コンもこの状況を楽しんでいる様子だった。
「まだそんなに時間は経ってはおらぬが…ぬしらと過ごした今日は、間違いなくわしは楽しかったし…えもえも、なのじゃ!」
コンは口角を一杯に上げてにんまりと笑うと、皆の顔を見渡し、一人一人の顔を確認していた。
多分皆同じ顔をしていただろう。
樹も花奈もばあちゃんも母さんも俺も…皆笑顔で、ニコニコと笑っていて、心の底から今、この時を楽しんでいるのが一目で分かった。
「良く分からんが、エモいのじゃ!」
覚えたての単語を繰り返す様はまるで幼子の様だが、皆もその様子を咎めることなく「そうだね~」とか「そうね」と、頷いていた。
「よくわかんないかー!まあ、でも何となくでいいんだよ!そうそう、スイカが冷たくて美味しいのも、花火が綺麗なのも、夏こうやって友達と花火するのもみーんな、みーんなエモい!なんだよー!」
「おいおい、スイカ美味しいはエモいとは違うだろ…」
「なにいってんのー、そんなの何となくで皆で楽しい、美味しいを共有できたらそれはもうエモいでいいじゃないの!」
「そういうんかよ…」
「そういうもんよ」
「ねー?」
「のじゃ!」
と、話している内にコンの持っていた線香花火の火球が唐突にポトンと落下し、足元に黒いシミを作る。
「あ…」
「あ…終わっちゃったわね」
次いで樹の線香花火もポトリと火球が落下する。
終わってしまうと何ともあっけないそれに、何とも感慨深い気持ちになってしまったが、それは何かが終わってしまう時には自然と感じるもので。
楽しい事もいつかは終わりが来ると、教えてくれている様だった。
「終わってしまったの…」
終わっても尚、右手に花火の残滓を持ったまま、座り込んでいるコンは、その先端をまだ見つめていた。
「そうね…。よっこいせ!」
そう言うと、樹は立ち上がり、終ってしまった線香花火をバケツに放り込むと、膝をパンパンと軽く
「花奈ちゃん、もう遅いから送って行くわ。そろそろお暇しましょうか?」
と、言うと花奈は「そだねー」と、短く返事を返すと後片付けモードに入っていた。
「何か今日片付けばっかな気がするー、だるー!あ、お母さんこれはどこに捨てたらいいすか?」
と、愚痴はこぼしていたが、花火の残骸の入ったバケツを持つと母さんに尋ねていた。
「あらあら…それは、明日纏めて捨てておくから、水かけてそこに置いててくれたらいいわよ~」
と、母さん。
そんなやり取りを尻目に、俺も腰を上げて片付けを手伝う。
「ほら、コン…それ」
と、バケツの方を指さして促すと、コンは動かない。
「…」
「どうした…?」
と、声を掛けると、コンは後ろを振り向き立ち上がる。
「おっと、忘れておった!ポチ丸、ワシの分のスイカがまだ残っておったはずじゃ!それを残してしまうと罰が当たってしまうぞ!ほれ、突撃―いくぞー!」
と、燃え殻を大事そうに抱え、急に走って玄関の奥へと消えて行った。
「あ、こら!急に走るなっての…」
俺はとっさの出来事に追いつけず、コンを見送る形になってしまったのだが、樹と顔を見合わせると「まあ、好きにさせてあげたら?」と、諭されてしまった。
「はぁ…」
と、息を吐く。
あいつなりに考えがあっての事なんだろうと、深く考えるのはやめた。
というか、考えたところで答えなどでない。
分からないならいっそ、好きにさせてやるべきだと、心の中でそう思った。
「ま、いいか」
と、一人納得して蝋燭やらコップやら使った道具を纏めてゴミの分別をしながら、後処理をするのだった。
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