第1話 このもふもふに、制裁を!(4)
なんでこんなのと知り合いか?と聞かれると色々とややこしいのだけど、オカマはまあ高校の時の同級生だ。
クラスは違っていたが選択科目や合同授業の時に良く助けてもらっていた。
俺は当時頭の出来はそんなに良くなかったので、宿題に悪戦苦闘している時、たまたま声を掛けてくれたのが笹原。
それから何度か顔を合わせるたびに軽く雑談する程度の仲になって、何だかんだウマが合った。
頭脳労働派というの実際その通りで、こいつは当時から成績は割と上位の方の優等生だった。
野球部で丸刈りでバットとグローブ担いで運動場で白球を追いかけてるイメージだったのだが、一年程前にたまたま事務所の近くのスーパーに立ち寄ると、そこで試食販売の仕事をしていた。
久々だった事もあるし、昔と大分見た目は変わっていたが、あの野太い声と厳ついガタイだけは昔から変わってなくて、その時にいつから目覚めたか?と問いかけたのだが、本人曰く「天啓よ!」と、ある日突然変態へとジョブチェンジしていた。
全く、人生いったい何があるか分かったもんじゃない。
花奈の方は猫探し仕事の時に知り合った。
最初は笹原と二人で探していたが、成果が出ず、行き詰った状態になった時に迷い猫を抱えて歩いていたのが花奈であった。
彼女曰く「だりーけど、フラフラだったから死なれてもだりーし、ちょっとだけ世話してやるかーって感じー…だりーけど」とのことで、第一印象はいい加減なやつだったが、それでも猫を保護するなんて面倒を抱えてくれるくらいにはいいやつなのかもしれない。
と、いった印象だった。
笹原の方とも同意見の様で猫について少し話してると、いとも簡単に何故かすぐに打ち解けてしまいそれ以来の付き合いだ。
まだ知り合ってそんなに長い付き合いではないが、時々事務所に来て飯を作って貰ったり、うちの仕事の手伝いをして貰っている。
勿論バイト代を支払ってだが。
彼女は保育士の仕事をしているらしいが、本人曰く「保育士まじで金ねーから、だるいけど、あんたんとこの仕事でバイト代稼がせてもらうわー…まじだるー」とのことだ。
まあ主に事務所の掃除やら、迷い猫散策などの人海戦術要因だったりするのだが、見た目や言動のルーズさが目に付くがそれに反してやることはきっちりとこなしているし、意外と几帳面な性格である為こちらとしては非常に重宝しているのだ。
通話を終えると、本殿の方へ向き直り歩を進める。
そして俺はそこで強烈な違和感を覚えた。
「ん?」
賽銭箱の向こう側、正確には本殿の方の三段程の短い階段の一番上の段においておいたハズの容器が宙に浮いていた。
「は?」
突然の非日常に困惑しつつ、目の錯覚だったり脳の錯覚の線を疑い何度も目を擦る。
が、どうやら目の錯覚や幻覚の類ではなかった。
実際に容器はふよふよと賽銭箱の上に浮遊しており、止めてあった輪ゴムがバチン!とはじけ飛び、容器の蓋だけが地面に落ちたかと思えば、中に入っている稲荷寿司が一つ、二つと宙に浮かんだかと思えばまるで煙の様にゆらゆらと
その光景に俺は一瞬フリーズする。
完全に思考が停止していたが、すぐにブンブンと、思い切り首を左右に振って無理やりどこかへ飛んでいた意識を現実に引き戻す。
「ちょ、俺の昼飯…ッ!」
とっさに発することができたのはたったのこれだけだった。
が、それどころではない。
何故なら、こうしている今も目の前で尚も一つ、二つと稲荷寿司が霞と消えていたからだ。
意味不明な現象に困惑し、手にしたスマホを仕舞うのも忘れて駆け出していた。
本殿へ近づくにつれ、パックの中身が減っていくのを認識できた。
一つ目のパックがやがて空になるというところで何とか本殿の前へ到達した。
距離にして二十メートルくらいだろうか。
何とか疲れて軋む体に鞭打って辿り着くと、もう一つのパックがまた宙へ浮こうとしているところだった。
そこで奇妙なものを目にした。
バランスボールくらいの大きさの、薄い黄色のモフモフ。
一言でソレを言い表すとこうだろうか。
ソレは俺に気付いた様子もなく、何か不思議な力を使って、稲荷寿司の入ったパックを宙へ浮かすと、ソレの上へ乗っけて本殿の中へとぽよん、ぽよんとはねて行こうとしていた。
得体の知れないソレに困惑はしたが、俺の身体は空腹という本能に抗えず、今まさに昼食を持ち逃げ?しようとしているソレを追いかけ、獲物を横取りされまいと渾身の力を込めて手刀をお見舞いした。
「みぎゃっ…ッッ!」
渾身の一撃をお見舞いすると、その感触は絹の様な滑らかな感触が伝わってきたかと思えば、すぐにボウリングの玉の様な固い感触にぶち当たる。
思った以上に硬さがあって驚いたが、それどころではなかった。
手刀をお見舞いすると、モフモフはパックを床に落とし、その場から消えてしまった…いったい何だったんだ?
というか、今何か聞こえたような…?
すると、間髪入れずに境内の祭壇の方から大きな、だが舌っ足らずな子供の様な声が聞こえてきた。
「こにょっ、無礼者!ワシを誰だと思うておる!神だぞっ!?それを…ふぇぇ…!」
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