第52話 新米パパと頑固親父(3)
ここまでで大体一時間くらい経過しており、時刻は丁度午後一時頃。
ここまでずっと樹は腕を組み、時折お茶を啜る以外のアクションは起こさず、眉間に皺を寄せて目をつむりだんまりを決め込んでおり、花奈も同じく難しい顔をして樹と同じく腕を組み、茶を啜っていた。
時間にして三分くらい経った頃、政さんは一枚の写真を手に持って戻ってきた。
「ほれ、これだ。この間成人式の時に撮った写真だ。焼き増ししてあるからこれはあんたにやるよ。持ってきな…」
成人式って…息子さん二十歳かよ…若っ!
「息子さん随分とお若いですね…?」
「まあな…俺が五十ん時のガキでよぉ…はぁ…甘やかしすぎたのかもしれん…」
と、政さんは短く返事をするとため息を吐いた。
五十で子供を産ませて育てるって…まじかよ、すげえな政さん…。
男として、素直にその若々しさに感動していたが、どうやら潮時の様だ。
「さて、俺も仕込みがあるからそろそろ作業に戻らせてもらうが…まだ聞きたいことはあるか?とは言ってもこれ以上話せる事はなさそうだがな…」
と、政さんがそう言ってカウンターの奥へと戻る。
「あ、すみません最後に一つだけ!」
「おう、何だ?」
「息子さんがガラの悪い連中とつるむ様になったと伺ったのですが、それはどこで知ったのですか?」
「あー…あれは一週間前に丁度喧嘩した後にあいつが出て行く時にチラッと見えたんだよ。金髪と黒髪の二人組と一緒にやたらうるさい車に乗って出て行くのをな?それで、よからぬ輩とつるむ様になったかと心配してたんだが…まあ、一瞬だったから見えたのはそんだけだ」
「金髪と黒髪の二人組にやたらうるさい車ですか…分かりました、突然お邪魔してすみません、ありがとうございました!」
なるほど、金髪と黒髪…偶然の可能性もあり断定はできないが、先日遭遇した二人組のヤスとコウちゃんとやらの容姿とも一致した。
やたらうるさい車というのも気になる。
「ちなみに、その車は青…というか水色っぽい感じのスポーツカーでしたか?」
と、俺が尋ねると政さんは目を閉じ、顎に手を当てて首を傾げて思案する。
暫くして、 ポンと右手を握って左の掌に乗せ、口を開く。
「ああ、確かにそんな感じだ!あれは確かに、やたらうるさい水色っぽいスポーツカーだった!」
と、首を上下に動かしてウンウンと頷きながら政さんは言う。
「そうでしたか…まだ断定はできませんが、やはり息子さんは半グレ集団の一員と接触している可能性が非常に高いですね…」
「…そうか」
と、政さんはふ視線を落とし、小さくため息を吐くと目を閉じ台に手を着いて首を左右に振る。
「とりあえず…分かった。あんた達情報のついでに息子の行方を探してくれるんだよな?」
「ええ、今は少しでも情報が欲しいですからそのつもりです」
政さんが目を開き、真っすぐにこちらを見据えて問いかける。
勿論俺は情報が欲しい為、素直に返事をしたのだが、その返事を受けて政さんは一度頷くと、カウンターの奥から紙とペンを持って来て、そこに何かを書き始めた。
暫く待っていると、ペンを動かす政さんの手が止まり、カウンターの向こうからそれをこちらに差し出してくる。
「ほら、こいつを持って行きな。息子の携帯の電話番号と名前だ。役に立つかわかんねーがこいつも持って行きな。もしかしたら、直接話が聞けるかもしれん…」
「…よろしいのですか?」
「良いも何も、倅が犯罪集団に片足突っ込んでるとなると、ほっとけねえよ。それを探してくれるってんだ!感謝こそすれ、責めるなんて見当違いも良いとこだ。それに、ハルの孫なんだろ?神様の為に動いてるってのも本当みたいだし、あんたらなら悪いようにはしねーだろうよ。これでも、人を見る目はあるつもりだぜ?」
と、政さんは言う。
恐らく俺個人ではここまで政さんの信用を得る事は難しかったと思う。
ただ、今回に限りコンがいてくれたおかげで話がスムーズに進んだので、コンに感謝せねばなるまい。
「ありがとうございます」
俺は素直に深々と頭を下げ、政さんに礼をすると政さんはそっぽを向いて、作業をし始めた。
「あー…とりあえず、もういいか?そろそろ仕込みを始めねーと夜の営業に間に合わねーんだが…」
と、ばつが悪そうに口を開く政さん。
「あ、いえ…こちらこそ、お時間取らせてしまい申し訳ございません。色々と参考になりました!写真は事が済んだらお返ししますので…」
「ああ、構わねーよ!それじゃ、息子のこと…頼んだぞ?」
「はい…お任せください」
と、短く言葉を交わすと、政さんは手を上げて軽くひらひらと振って、作業に没頭し始めた。
「よし、行くか?」
と、俺は立ち上がろうと、先程お仕置きされてから大人しかったコンに声をかけると、コンはまだ涙目で不貞腐れながら口を尖らせて俺を見上げると、口を開く。
「…酷いのじゃ…あそこまで、せんでもよいではないかっ…!」
と、必死に訴えかけてくるので、そこまで落ち込むか?と思いながらも、俺はコンの頭に手を乗せて、ぽんぽんと軽く撫でてやる。
「すまんすまん、長い間大人しく出来てえらいぞコン。ほら、もう話終わったから政さんに挨拶したらまたちょっと歩くぞ。あと、昼飯な?お前がさっき言ってたバケツプリンだっけ?食いに行くぞ?」
「…なぬっ!それは本当か!?こうしちゃおれぬ!政、またの!ほれ、四季花奈樹!さっさと行くぞ!ばけつぷりんがワシを待っておるのじゃ!」
と。俺がそう言うとすぐに立ち上がり、目をキラキラと輝かせぴょいっと膝の上から降りてしまい、たたたたたと店の入り口に方へと元気良く駆けて行くと、こちらに振り返りブンブンと手を振って催促してくる。
ホントに食うのが好きなんだな…。
と、若干呆れつつも俺も椅子から立ち上がり、コンの方へと歩いてく。
それに釣られて、先程から黙ったままの樹も立ち上がり、こちらに歩いてくる。
「あ、ちょっと待つっすよ!」
と、花奈はスマホを取り出し、テーブルの上に置いてあった小さな紙製のコード付きポップを撮ると何やら操作していたが、慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「おっけーっす!さあ行くっすよ!待ってろバケツプリンパフェっす!四季っちごちになりやす!」
「なりやす…のじゃ!」
と、元気にコンと手を繋いで勢いよく頭を下げ、はしゃぐ二人。
おいおい、お前もかよ…。
と、思いつつも、店を出る前にもう一度政さんに軽く頭を下げてから扉を開けて店を後にしたのだった。
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※お知らせ
第十三話えもえもと線香花火に挿絵が完成しましたので、是非ご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859532349203/episodes/16816927861026118557
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執筆の燃料となりますので、是非ともよろしくお願いいたします(*'ω'*)
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