第47話 車内ミーティングと奇天烈大作戦!(1)
先程のコンビニから暫く車を走らせて、中央区にある商店街を目指す。
目的地はそこにある寿司屋の政さんの店だ。
ナビによるともう間もなく到着と表示されているが、コインパーキングを探すのに一苦労だった。
結局目的地から少し離れた場所に何とか止められそうな場所を見つけて、そこに車を止める事が出来たのは十一時半頃。
車を降りて徒歩で移動中である今、ただでさえ歩くのが憂鬱だというのに、燦然と輝く陽の光が惜しみなく降り注ぎ、あまりの暑さに日向ぼっこする猫も木陰へ逃げ去り、むわんとむせ返る熱気がその存在感を更に強調する様で余計に億劫になっていた。
俺はため息を吐いて、歩を進める。
ちなみにこの商店街は例の半グレ集団であるバッドウルヴスのアジトである夜桜ボウルからさ程遠くない場所にある。
現在歩いている道は丁度商店街とパーキングの間にある住宅が立ち並ぶエリアだ。
中央の繁華街に近く、そこらには居酒屋や飲食店が立ち並び、今はお昼時ということもあってか、ランチタイムの看板を引っ提げている店が多かった。
「あ、見て見て四季っち!日替わりランチワンコインワンプレートだって、めちゃくちゃ美味しそうっすよ!」
「あら~丁度いい時間帯だし…後で予定が終わったら行ってみようかしらねーコンちゃん?」
「おお!わんこいんわんぷれーと?それはいったいどういう物なのじゃ?ただこの絵を見たところ…この、はんばあぐ?とかいうのが美味しそうなのじゃぁ…ふへへ!」
と、店を指さしはしゃぐ花奈とそれに同調している樹。
更にはコンにまで話題を振って、さっきクッキーやらメイプル味やら食べたばかりだというのに、コンはもうお昼ご飯を食べるつもりの様だった。
ハンバーグの写真付きランチプレートに視線を釘付けにして、涎を垂らしながら樹と花奈と手を繋ぎ、賑やかに遊歩道を散歩している。
ちなみに俺の立ち位置は皆より五歩くらい少し前の方を歩いているのだが、ゆっくりと歩く後ろの三人に若干の苛立ちを覚えるが、焦ってもしょうがないと割り切って、軒先から香る料理の香りを堪能すると、腹ペコ大食い幼女の土地神様じゃないが腹の虫が少し騒ぎ出し、グー…という情けない音を立てていたのは、聞かれていないと良いのだが…。
移動中も接触した際にどうするかという対策を検討しておきたかったのだが、この様子じゃちょっと難しいかもしれないな。
車内で既に樹と花奈にはニュースサイトの記事を見せていて、その事で少しは作戦会議が出来たのは幸いだったな。
作戦会議ができたのは良いし、多少は方針も決まったのだ。
その件は良い。
その件は良いのだが…。
俺はふと立ち止まると、振り返って三者三様にはしゃぐ三人に声をかける。
「とりあえず、予定が終わったら飯にするから…それまでは大人しくしとくんだぞ…っつか、例のアレ何とかならんのか?」
俺がそう言うと、三人は立ち止まりにっこりと笑って茶化すような笑みを浮かべて首を横に振り言った。
「もう、その事については話し終えたじゃないっすか!」
「うふふ、私は役得だからラッキーよね?」
「四季、頑張るのじゃぞ?」
と、まるで他人事の様に言う三人だったが、俺はガックリと肩を落としてため息を吐く。
車内ミーティングにより何度も話し合った内容はこうだった。
◇
昨日コンと見たニュースサイトの記事を二人のスマホに転送して、昨日思った薬と半グレ集団の関係性とか、若者の犯罪率が高いとか、流通経路についてとか、酩酊状態なのに飲んでないニュースなど、昨日見たニュースの話を片っ端から話すと、二人共真剣な面持ちでニュースサイトの記事を読み込んでいた。
ちなみに、俺がその話をしている時、コンは退屈そうに欠伸をしながら、窓の外を眺め、街路樹を一本一本数えていた。
「ここまで生えておった木は三百二十七本じゃったぞ!あ、今一本増えたから三百二十八じゃ!ふへへ!」
と、後で教えてくれたのだが…いや、大事な話なんだから話聞けよ!ってか、暇かよ!
と、心の中でツッコミを入れつつ、その話はおいといて…話を戻そう。
暫くして、ニュース記事を読み終えた樹はゆっくりと口を開くと、少し考え込む様な仕草で腕を組み、目を閉じて言葉を紡ぎ始める。
「それなら客のフリして近付けば潜入して、調べられそうかしらね?ちょっと危険かもだけど…」
「わわっ、潜入捜査って何かゲームみたいでワクワクするっす!」
樹はリスクも承知の上で情報収集が可能であるところに目を付けていた。
そこは俺も同意見であり、その為の小道具を先程購入したばかりである。
「あ、でも、どうやって信用させるっすか?この記事によると薬の使用目的ってその…エッチな事に使うって書いてあるっすけど…四季っち一人で接近する場合って、怪しくないっすか?」
と、花奈が頬を赤らめ、やや恥じう姿を見せるが、珍しく至極真っ当な事を言っていた。
「そこなんだよなー…俺も昨日からとりあえず客のフリして近付くのは考えていたんだけど、上手いアプローチは考えつかなかったんだよ…」
「怪しまれない様に接近するにはそれなりに信用させないとっすね…あー、あれっすか?やっぱ恋人のフリ作戦とか?私と四季っちで手でも繋いで会うっすか?」
ベタだがいい線行ってると思う。
だが、問題もある。
というか、問題が起きた時にどう対処するかの方が問題だ。
花奈を連れて行った場合、正直暴力行為や複数人に取り囲まれればひとたまりもない。
俺単体であれば、何とか逃げ出すことも出来るだろうが、花奈をかばいながら逃げるのは相当に苦労するだろう。
そもそも問題が発生する事態になっている時点でかなり危険なので、できれば問題を起こさずに情報を集めたいのだ。
「うーむ…しかしなあ…」
考えれば考える程危険という二文字が常に付きまとい、中々上手く踏ん切りがつかないでいると、樹も一つ提案してくる。
「恋人作戦は良いと思うわよ?結局のところ利用目的ってそういう事に使うって書いてあるし…悪くはないんじゃないかしら?花奈ちゃんが心配なら別の誰か…っていうてもあるとは思うのだけど、そんな人物が都合よくいるかしら?」
「そうなんだよなぁ…ホントに…」
困ったものである。
俺は「うーん…」と、唸りながら信号待ちの間だけ腕を組み、思案する。
俺が思案にふけっていると、花奈が能天気に声をかけてくる。
「あ、私の心配してくれるんであればそこは大丈夫っすよ?」
ひらひらと手を振って、にやけた顔でそういうと、そのままにっこり笑ってやる気満々の様子だったのだが、俺が心配しているのにこいつときたら…親の心子は知らずが正しいと思うのだがこの場合は、俺の心、花奈知らずってやつだ。
心情を悟られるのも癪だったので、俺は努めて冷静に返す。
「いや、そこは全く心配してない」
「酷っ!四季っち少しは心配して欲しいっす!」
すると花奈はガーンとかズーンとか、アニメや漫画ならそういう効果音が入りそうな程肩を落とし、露骨に落ち込んでる様子を見せる。
「いや、まあ…危険は伴うが、ちゃんと対抗策があればそこは大丈夫だろ?まあ、その方法が思い浮かばないんだけど…」
俺は正直心配しているとは言え、逃げる算段があれば別に花奈をパートナーにして潜入することも吝かではないのだが。
その方法が思い浮かばないから困りものであるのだ。
「もー!コンちゃん四季っちが酷いっす!」
「んー?なんじゃぁ?四季花奈をいじめちゃ、メッ!なのじゃ!」
コンに助けを求める花奈は、ぷりぷりと頬を膨らませて手足をばたばたと動かし、身体を揺らして暴れていた…子供かお前はっ!
そんな様子を見かねたコンは、少し困惑気味に眉間に皺を寄せていた様子だったが、花奈の態度に充てられて、俺の方へと体を向けて右手の人差し指をピンと立てて、左手を腰に沿えると、メッ!と、子供を叱る親みたいなポーズを取っていた。
「うわーん、コンちゃん優しいっす!」
「よしよし、花奈よ…ワシが守ってやるからのぅ…?」
涙が出てないウソ泣きだが、コンに泣きつく花奈の頭をコンが先ほどやられていたのとは逆に、ぽんぽんと花奈の頭を撫でる。
そんな様子に満更でもない様子の花奈だったが、撫でられて落ち着いたのか背もたれに腰掛け、足をぷらぷらとさせて、後頭部の辺りで手を組み座り直していた。
「ありがとうーコンちゃん!コンちゃんの癒しパワー貰ったっすから頑張れそうっす!」
「良い良い…ほれ、また辛くなったら撫でてやるからすぐに言うのじゃぞ?」
「あのなぁ…」
尻尾をゆらゆらと揺らし、落ち着いた様子のコン。
こっちは真面目に話しているのだが、どうも調子が狂ってしまう。
ただ、恋人作戦以上有効的な手段も思い浮かばなかったのも事実なので、結局この作戦で行くことになったのだが…。
「あ、良い事思いついたっす!だったら樹っちゃんと四季っちがカップルっていう設定で行けばいいっすよ!」
「はぁ!?」
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