第38話 ローカルニュースとWD
全国区のニュースをスルーして、夜桜市のみのローカルニュースに注目して眺めていると、ここ一週間で起きた事件や事故のニュースがずらっと並び、目に飛び込んできた。
殺人事件、車両事故、交通事故、コンビニ強盗、薬物乱用、盗難事件、喧嘩、食い逃げ、行方不明、放火…等々ここ一週間で起きたニュースだけでもとにかく大量の記事が表示されており、ここから必要な情報を絞り込む作業を考えるだけで辟易しそうだった。
「つか、テレビや新聞に報道されてないだけでこんなにニュースってあるんだな…知らんかったわ」
と、記事をスクロールしながら片っ端から眺めていく。
流し読みしながらざっと眺めていくと、ある違和感が俺を襲った。
「これは…中央区のコンビニで強盗…食い逃げも中央区、薬物使用も中央…って、車両事故も、殺人も全部中央区じゃねえか…!」
不思議な事に殆どの事件が中央区で勃発していた。
確かに人が多いし、それなりに事件や事故も多いだろうがこうも集中しているとなると…何かきな臭いな…。
試しに過去の事件も調べてみたが、一月二月前までは確かに事件や事故はあるものの、その殆どの原因は不慮の事故だったり、ヒューマンエラーだったりする。
ぱっと見で確証はないが、意図的に犯罪を犯した様な事件はそこまで目立った様子はないと思う。
しかし、ここ一週間の事件や事故を見てみると、食い逃げや強盗や殺人や放火等意図的に行われた犯罪や事件といったものが明らかに増加している様に見受けられた。
「犯人は…?」
三十六歳男性、二十二歳男性、十八歳女性、二十五歳男性、二十二歳男性、三十歳男性、十九歳男性、二十二歳男性…。
それも若い世代の犯罪が多い。
厳密に言うならば高校生から大学生くらいの若者が犯人のケースが多い。
ニュースの内容を見てみると、その動機はそのどれもが「何となく」だとか「どうなるか気になった」だとか突発的な犯行だったり「面白そうだった」とか計画性は感じられない行き当たりばったりな犯行が多かった。
「ふむ…未来ある若者がこんな馬鹿な事するかね?つか理由が酷いうな…んー…何かありそうだがはてさて…」
ざっと見渡した感じだが、半グレ集団に関する情報は無かったが、それでも興味深い情報は得られた。
俺はそろそろ切り上げようかと流し読みする手を止めて、ページを閉じようとしたところ、何となく目を惹かれる記事があった。
「ん?飲んでないのに酩酊状態の車両事故?」
俺はふとその記事が気になり、マウスを操作し記事のリンクをクリックする。
カチっと子気味良い音が鳴り、ページを開くと、画像付きでニュースの記事が表示された。
「なになに…ことし七月、夜桜市中央区で車とバイクが衝突しバイクの男性が死亡した事故で、その後の捜査で車を運転していた男性が赤信号を無視して交差点に突っ込んだ疑いがあることが分かり、車を運転していた男性は八日過失致死罪で起訴…起訴されたのは
ここまでは何てことない普通の交通事故のニュースなのだが、俺の目を引いた文言が続く。
「検察によりますと、畑山被告は事故当時会社からの帰宅時に交差点に突っ込んだ記憶はなく、アルコールを摂取していた形跡は無いが、酷く酩酊した様子であったことから、何らかの薬物乱用の疑いで現在も捜査中…と」
なるほどね。
アルコールを摂取していないのに酩酊状態ということは、確かに何らかの薬物を使用した可能性があるな。
ん、薬物といえば…それっぽいニュースがあったっけか?
俺はスクロールを動かして記事を遡り、目当ての記事を発見する。
「お、あった」
記事のタイトルは”夜桜市に蔓延する新たなる薬物WD…薬と言われると怖いけど…”であった。
記事をクリックすると、先程と同じく画像付きでカラフルなボールペンの写真が表示され、記事が続く。
「ん…これがWD?普通のボールペンじゃないのか…?」
と、どうでもいい感想を抱きつつ、画像をよく見てみると、ペンの引っかける部分に小さくだが何かの刻印の様な物が見えた。
「ん?なんだこれ…?」
俺はマウスを操作して別タブで画像を表示すると、画像を拡大表示して模様を調べる。
すると、刻印の模様はどうやら小さな狼の姿を象ったもので、背を反らし遠吠えをするようなポーズをしていた。
俺は画像を一旦閉じて、記事を読み進める事にする。
「えっと…今回は夜桜市に新たに蔓延する薬物の事情を探っていく。電子タバコで吸引できるリキッドタイプの覚醒剤の一種…wolfdown通称WDはがつがつ食うという意味で、若者を中心にここ数年で広まっている。その形状からペンとも呼ばれていると風俗のスカウト業をしている男は言う…か」
インタビュー記事だが、出所は一応ちゃんとしたニュースサイトだ。
半信半疑ながらも、多少は信頼できる情報だろうと読み進めていく。
「薬っていうと皆警戒するけど、タバコって言うと案外すんなり買っていき、一本一万で今まで捌いていたのが、最近は五千円程で販売している。ペンを買う目的は大半が性交目的での使用で、一本あれば二人で楽しめる…それを取っ掛かりに、パイプや薬に手を出して上客を育てるのが目的…か」
なるほどな、これなら確かに若い層にはウケそうだ。
まともにバイトや仕事をしていれば五千円という額は決して高い金額ではない。
割と真面目に日雇いのバイトでもすれば、一日で稼げてしまう額だ。
その程度の安価で薬が売られているとなれば、仲間内のノリや依存してしまう客も確かに増えるかもしれない。
「吸った直後はちょっとクラっと来るだけで、ただの遊び感覚だが、時間が経つと効いてきてじわじわとまた吸いたくなる…本物のタバコに近い感覚か」
感覚的にはちょっと高い珍しいタバコみたいなもんか…。
そこがこの薬の怖い所だな。
気軽に試せて、安価に購入できる…まあそれはタバコも同じだし、依存度で言えば覚醒剤よりもタバコの方がもっと高いので、安易にどちらが危険かと比べる事は出来ないが、薬物に手を出すことで反社会勢力と繋がったり、それをネタに脅される可能性もあるわけで、気軽に手を出すと痛い目を見る危険性は圧倒的に薬物の方が高い。
ま、タバコは合法、薬物は違法っていう線引きがされている以上、安易に手を出すことはおすすめできないのだが。
そんなことより、WolfDownでWD…薬にがっつけとかそういう意味だろうか?だとしたらなんてネーミングセンスの薬だ。
効能を知った上で、それを捌く悪意があるとしか思えないネーミングだ。
「酷いな…ここ数年で広まってるんか…全く知らなかったぞ…」
まあ、当然と言えば当然である。
真っ当に生活している人間はこういう物に疎くて当然だ。
むしろ関わっている方がヤバイだろう。
「しかし、ウルフダウンねぇ…」
ただの慣用句だが何か気になるんだよなぁ…。
「あ、そうか…!」
奇しくも今俺が追いかけている、半グレ集団もバッドウルヴスで狼だ。
これは…偶然か?
いや、何かしら関わってると考えても良いかもしれないな。
薬が流行し始めたのはここ数年だが、半グレ集団の名前もまた狼を冠するものだ。
偶然で片づけるには出来過ぎている…と、俺はそう思う。
この辺も明日政さんとこの息子さんにそれとなく探りを入れてみる必要があるかもしれないな。
俺は明日聞く事をスマホのメモ帳に記録して、ページを更に読み進めて行くのだった。
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