第27話 コンの力とブラックコーヒー

 フードコートを後にした俺達が向かった先は、ショッピングモール内にある多目的トイレだった。


 花奈とコンが二人して多目的トイレに入って、数分が経過していた。


 そして、俺は今現在その前で立ち往生しているわけなのだが…。


 樹は戻ってくるまで先にトイレに行くと言って丁度席を外していた。


 手持無沙汰になった俺はスマホを弄りSNSを確認したり、動画サイトを確認して暇を潰していた。


 しょうがないだろ?俺や樹が一緒に入るわけにはいかないんだから…。


 ショッピングモールのトイレ前に併設されている小さな休憩所のベンチに腰掛け、先程自販機で買ったブラックコーヒーのプルタブを開け、ちびちびと啜っている。


 俺は口に手を当て「ふぁぁ~…!」と、大きな欠伸をしてスマホから目を離し、視線を多目的トイレに向ける。


「本当に上手く行くんかなぁ…?」


 こればかりは俺にもどうか分からない。


 結局のところコン次第なのだから、その結果を待つしかないのである。


 まあ、コンが出来るって言ってたんだから信じるしかないだろう?


 俺はため息を吐き、再び視線をスマホに戻す。


 適当にスライドして呟きを流し見たり、ニュースサイトの巡回をしているが、特に目ぼしい情報は無かった。


 ブラックコーヒーを煽り、最後の一滴まで啜り取ってから、空になった缶を自販機に併設されているゴミ箱に放り投げる。


 カコンと子気味良い音を立てて、ゴミ箱の底に沈んでいく缶を眺めていると、自販機の側の扉が勢いよく横にスライドし、ガラガラと音を立てて開いた。


「想像以上かもしれないっす…これは、大変なことになったっす…」


 と、口を開き多目的トイレから出てきたのは花奈。


 だけであった。


「おい、コンは?」


 俺がそう問いかけると、花奈は奥の方に向き直り、声をかける。


「あ、そうだった。コンちゃん、もういいよ?」


 と、花奈が声を掛けると、さも当たり前かの様にコンの姿がパッと現れ花奈の半歩後ろの方に佇んでいた。


 まるで最初からそこに居たかのように、コンは「ん?なんじゃ?」と、言った様子で不思議そうに見ている俺の顔を覗き込んでいた。


 俺はその様子を確認すると、確信した。


 これは、いける…と。


 一瞬だけ姿消していたコンを確認すると、俺は自分の仮説が正しかったことを確信して、武者震いをしていた。


「やっぱ思った通りだったわけだ?」


 俺がそう言うと、花奈は親指を立ててコクリと頷き続けた。


「四季っち、凄いっす…よくこんな発想が浮かんだっすね?」


 と、花奈が俺を褒めたたえると、樹が割って入ってきた。


「四季ちゃんの予想通りだったのだろうけど、一応報告してもらえるかしら?結局どの程度いけたのかしら?」


 と、前のめり気味になり、樹も興味深々の様子だった。


「おっけーじゃあ、説明するね~?」


 と、花奈は事の顛末を語り始めたのだった。


 ◇


 四季っちに言われてコンちゃんと一緒にトイレに入った私は、とりあえず鍵をかけて四季っちの指示通り、コンちゃんと対面していた。


 コンちゃんはこちらに向き直り、結局何をするのか分かっていなかった様子で、私の指示を待っていたっす。


 私はカバンに仕舞っていた発信機を取り出すと、コンちゃんにそれを手渡す。


「じゃ、コンちゃんいいっすか?これを持ったまま消えてみるっすよ?出来るっすか?」


 と、私が問いかけると目の前の美少女ケモミミ土地神様は首を傾げて目をぱちくりさせながら、それを受け取る。


「ん?これを持ったまま消えればよいのじゃな…?」


 と、私の言った事を反芻するとコクリと頷き元気よく返事をする。


「うむ、分かったのじゃ!では、行くぞ?」


 と、コンちゃんはそう言うと、目をつむった。


 次の瞬間、私の目の前からコンちゃんは消えていたっす。


 何の前触れもなく、そこに在るハズの存在が認識できないというか…そもそも元々そこには何もなかった、ただ空間があるだけ…という、認識しかできなかったっす。


「え、コンちゃん…?」


 と、私が辺りを見渡し、声をかけると先ほどと寸分変わらない場所にコンちゃんは立っていたっす。


「どうじゃ?できておったか?」


 と、不思議そうにこちらを覗き込み前のめりになり尋ねてくるコンちゃん。


 私は正直自分の目で見たものだったけど、信じられなかったっす。


「うわっ!びっくりした!コンちゃんホントに消えたっすね!?すごいっす…」


 と、驚いている私に向かってコンちゃんは胸を張り、ちょっとだけ視線を反らしながら赤らんだ頬をして言う。


「こ、これくらい…当然なのじゃ!ワシ、土地神じゃからな…見習いじゃが…!」


 と、コンちゃんは褒められて嬉しかったのか腕を組み鼻息がちょっと荒くなっていたっす。


 だが、驚いてばかりはいられない。


 四季っちから言われた次の指示をコンちゃんに伝えて実行してもらわないと。


 私はスマホのムービー機能を立ち上げると、録画の状態にしてコンちゃんにもう一度指示を出す。


「よっし、それじゃコンちゃん次はコレの前でもう一回消えてもらえるかな?」


 と、カメラを構えて観測が可能かどうか確かめるべく、再びそう言うとコンちゃんはコクリと首を縦に振ると「あい!」と、返事をする。


 次の瞬間、スマホの画面を眺めていた私は驚くことすら出来なかったっす。


 何故なら、ムービー機能を起動したことは覚えていたけど、なんで起動しているのか分からなかったっす。


 ぽかんと記憶が抜け落ちたみたいな状態になって、私はスマホの電源を落としたっす。


 はっきりとは思い出せないけど、何か引っかかるみたいな…そんな状態になって、一応動画を再生してみると、私はコンちゃんという子に向かって、一人で喋っているだけの動画が撮れていた。


 一瞬気味が悪くなったっすけど、ふとその名前を思い出し、名前を叫ぶと、そこに佇むコンちゃんはニコリと笑って「もうよいか?」と、私の顔を覗き込みながら言ったっす。


 その結果を踏まえて私はとても驚愕したっす。


 この力を使えば、悪いことも何でもやりたい放題出来るっすけど、私はそういうことにこの力を使うのは反対だった。


 ただ、今回は仙狐水晶?とやらを探す為に仕方なく使うっすから、さっきの人たちには悪いっすけど、今回だけは許して欲しいと思ったっす。


 暫く凄すぎて理解が追い付かず、ぼーっとしている私にコンちゃんは近づき、コンちゃんは抱き着くと、私の顔を見上げて言った。


「そんなに難しい顔しなくても大丈夫なのじゃ!四季が必ず仙狐水晶取り戻してくれるって言っておったのじゃ!じゃから、安心して任せればよいのじゃ!」


 と、何の疑いもなくコンちゃんは屈託のない笑顔を向けてくれた。


「ああ、そうっすね!とりあえず、確認出来たっすから戻ろっか?」


「あいなのじゃ!」


 というやり取りをして、私たちは多目的トイレから出る。


 その前に。


「コンちゃん、四季っちを驚かせてやろう!」


 と、もう一回コンちゃんに消えてもらって、私だけ出てくるっていう悪魔的発想を思いつき、いたずらを実行したっす。


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