第18話 歴史と宇迦之御霊之神使之久那妓白尾之命
夜桜山、歴史。
検索窓にはそう書かれていて、検索ボタンを押した状態でページが開かれていた。
件数はそんなに多くないが、多少なりともヒットしているということは、もしかしたら仙狐水晶についての資料が乗っているかもしれない。
ヒット件数は三十八件。
マウスを操作し、ドラックしていくと半数は夜桜市の観光案内や麓のB級グルメ情報だったが、数件だけ気になるページを発見できた。
「なになに…夜桜山の歴史…成り立ち…か」
俺はカーソルを合わせてそのページをクリックする。
カチっと子気味良い音を立ててマウスが機能するのを確認する。
良かった、衝撃で壊れてはいない様だ。
ページを表示させると、そのページは個人作成のページの様で、古いタイプのサイトだった。
どこかノスタルジックなそのサイトは、背景にフリー素材であろう狐の石像を並べた薄い緑色の壁紙と、いくつかのタブがあるだけだった。
上から順にみていくとこうである。
一、夜桜山について
二、ご神体について
三、参拝について
四、マップ
と、割とシンプルな構造だった。
俺は順番にタブをクリックする。
各項目にざっと目を通すと分かったは以下の通りだった。
【夜桜山について】
夜桜山は飛鳥時代から修験道として使用されており、山伏が祈祷を行う為に護摩を焚き呪文を
現在は使用されていないが、明治五年に修験禁止令が発令されるまでは現役で使用されていた。
山頂には稲荷大社の分社があり、元は山伏が使っていた山小屋である。
現在は私有地であり、稲荷分社には大社に縁のある神様が祀られている。
名は
稲荷大社の
というものだった。
これは…凄いな。
個人で作成したページにしては、情報が詳しく書かれている…。
本当かどうかは定かではないが、これだけ詳しく書かれているのなら信憑性もあるのではなかろうか?
俺はページを読み進めていく。
マウスを操作して、本命であるご神体についてというタブをクリックする。
カチっとクリック音が鳴ると、正常にページが表示された。
【ご神体について】
いつ頃から設置されたのか定かではないが、おおよそ奈良時代頃に山伏によって設置されたのではないかと推察されている。
ご神体である仙狐水晶は土地の安静化、無病息災や五穀豊穣を祈願した山伏や人々の祈祷を受けて安置されていた。
現在は経年劣化で損傷が激しく、明治の初期頃に交換されて、現在安置されているのは初代を模した水晶である。
本体は国によって管理されていて、現在は閲覧不可。
代わりに現在設置されている仙狐水晶の画像が表示されていた。
中央に透明な水晶があり、その両サイドに黒い球が大小数珠繋ぎに並んでいた。
【参拝について】と【マップ】の項目も一応確認してはみたが、特にこれと言った情報は無かった。
と、大体こんな感じだった。
なるほど、大体久那妓さんから聞いた通りだ。
正直見た感じの感想は、さっきの胡散臭いアクセサリーと見た目は然程変わらないなという印象だった。
だが、現在設置されているのはレプリカではあるが、下手したら国宝レベルの代物だ…これだけ大事な物ならやはり警察に連絡した方がいいかもしれない…。
しかし、万一要らぬ疑いをかけられたらたまったもんじゃない。
悪い事をしている訳ではないが、あらぬ疑いをかけられて、言い逃れできるか怪しいし、何より面倒すぎる。
久那妓さんから直接依頼を受けているということもあるし…やはり、自分たちで見つけるしかない。
俺は真剣にディスプレイを眺めていた様で、涙目だったコンは立ち直ったのか、退屈を持て余して、立派な尻尾を俺の首に纏わせると、ぴくぴく動かし下顎をくすぐる。
「ほれほれ…何を怖い顔しておるのじゃ~?それより、早くプリミュアを見せるのじゃ!」
と、こりもせず調子に乗っているコンだが今は探すべきもののビジュアルが分かっただけでも収穫といえよう。
俺は構って欲しそうにまとわりつくコンの尻尾を振り払い、仙狐水晶の画像をプリントアウトすると、A4サイズのクリアファイルにそれを挟む。
ついでに樹や花奈にこのサイトのURLを送っておこう。
『仙狐水晶のビジュアルが分かった。ついでに歴史とかも一応読んでおくといいかも?』
と、スマホを操作しコピペで送信する。
すぐに既読が付いたので恐らく確認してくれているだろう。
一通りの作業を終えると、コンの方に向き直り両手で頬っぺたをむぎゅ!っと鷲掴みにすると、コンは僅かな抵抗のつもりかほっぺに空気を入れてぷっくり膨らませる。
「ぷぅー!なんじゃ、なにするのじゃ~!」
と、ほっぺを膨らませてじたばたと暴れているが、がっちりホールドしている為身動きは取れない。
「コン、仙狐水晶の写真があった。これで間違いないか?」
と、ディスプレイの方へとコンを引き寄せ、確認させる。
「おお!これじゃ、これ!」
と、肯定するコン。
よし、間違ってないなら一歩前進だ。
俺はコンのほっぺをむにむにと揉みしだき、存分にぷにぷにほっぺを堪能すると、コンの頭にポンと手を乗せて、言う。
「実物が分かっただけでも進展だ。仙狐水晶、ちゃんと見つけてやるからな?」
と、伝えるとコンは耳と尻尾をペタンと畳むと、しおらしくなったかと思えば、すぐに尻尾をぱたぱたと動かし、顔を伏せて俯く。
「その…すまぬが、よろしく…なのじゃ…」
と、先程の様子とは打って変わって随分と大人しくなってしまったものだ。
「ああ、任せておけ」
と、言って再び頭をぽんぽんと軽く撫でる。
手に触れる暖かな温もりと、サラサラの髪が指に絡みつくことなく滑らかに滑り落ちる。
軽く触れただけだが、フサフサな耳も俺の手が触れると小刻みにピクリと揺れ動く。
「んじゃ、そろそろ行くか…?」
と、声を掛けるとコンは無言で頷いて何かを言っているが、声が小さすぎて聞こえなかった。
「……う、なのじゃ…」
「ん?何か言ったか?」
と、聞き返すとコンはブンブンと頭を横に振ってぴょんとジャンプすると、入口の方へ着地する。
「さ、さっさと行くのじゃ!」
と、コンは再びドタバタと音を立てて、階下へ降りて行った。
ったく、礼を言うならちゃんと言えっての。
微かに聞こえたコンのつぶやきは「ありがとう」と、言っていた様に聞こえた。
俺はPCを操作して電源を落とし、いつも使っているポーチとは別のリュックサックを持つ。
そこにクリアファイルを突っ込み、タオルや筆記用具等必要そうなものを詰め込み部屋の電気を消して、コンの後に続くのだった。
「ったく…階段は静かに降りろっての!」
注意を促すが、多分今の俺の顔はだるんだるんに緩みまくっていると思うんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
作品のフォローと☆☆☆を★★★にする事で応援していただけると、ものすごく元気になります(*´ω`*)
執筆の燃料となりますので、是非ともよろしくお願いいたします(*'ω'*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます