お狐様の御使いー神様幼女と冴えない俺のほのぼの生活のはずが!?ー
八雲ややや
第一章 お狐様の御使い
day1
第1話 このもふもふに、制裁を!(1)
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みーん、みーん…じわじわじわじわ…。
蝉の大合唱が聞こえてくる。じめっとした空気とやかましい大合唱のコラボレーション。
俺のやる気を悉くそぎ落とし、ついでにバッタやてんとう虫なんかの昆虫も先ほどから俺の頬を掠め飛ぶ。
まるで羽虫に馬鹿にされている様な、そんな気分だ。
時折吹いてくる風も熱気を孕んでいて、最早熱風である。
それすらも気持ち悪い。
頬を伝う雫はぼたぼたと流れ落ち、このくそ暑い気温を和らげようと必死に俺の体が抵抗しているが、その抵抗も空しく然程効果があるようには感じられなかった…つか、くっそ暑ぃ!まーじでくそ、クソクソのクソ!!
のろのろと歩を進める俺を、実際に羽虫が馬鹿にしているというわけではないのだが、どうにもこうにも何かに悪態を吐いていないとやってられない程にしんどかった。
「なんで…山の中なのにこんなに暑いんだよ…せめて、木陰くらいは涼しくしておいてくれよぉ…」
独り言も空しく、うだるような暑さは更に激化し、歩き始めてかれこれ一時間半程だが、太陽は丁度真上に到達する時刻だった。
「ちきしょう…あのババア…毎年こんなの、やってやがったのか…そりゃ、ぴんぴんしてるハズだわな…」
俺が悪態を吐いても誰かに届くことはないが、気持ちの整理もしたくなる。
それ程にこの山道は険しく、整備されていない自然特有の壮大さを思い知ったのであった。
実際には、腰の高さ程まで伸びた雑草のせいで殆ど目視することはできないが僅かに手入れされていたであろう形跡の石段のおかげでかろうじて歩を進めており、この石段がなかったら頂上にたどり着く前にきっとギブアップしていたであろう。
何とか石段を登り切ると、今度は完全な未整備地帯。
そしてその先には、周りの木に負けないくらいの大きさの鳥居があり、よく見ると雑草に埋もれてしまっているが、鳥居の横には二匹の狐の像が設置されていた。
年季が入っており、台座の部分などは所々欠けてしまっているが、像の部分は古びて苔が生えてはいるが、目立った損傷などは無く、綺麗なままだ。
左右で微妙にポーズが違っており、右のほうの像は口に丸い球のような物を咥えており、お淑やかに座って整ったポージングをしており、耳が垂れていた。
左の像は対照的に、口には石でできた小さな刀のような物を咥えており、座った状態で前足を上げてボクサーのファイティングポーズのような姿をしていて、耳がピンと尖っていた。
気力を振り絞り、リュックから鉈を取り出し何とか気合で文字通り道を切り開いていく。
登山する前に装備した通気性の良い夏用ジャージの上下に、軍手を装備していたせいで額からは汗が吹き出し、服の中は汗で湿って気持ち悪い。
首にかけたタオルは汗をタップリ吸い込んで絞ると塩水が垂れてくる程だ。
だがそのおかげで肌を草に引っ掛けて傷だらけになってしまうという最悪の事態は避けられているわけだが。
持ってきた二リットルのペットボトルのお茶はもう温く、半分以上消費されており、もうやがて空になりそうだ。
それでも何とか前へ進むと、鳥居の向こう側にようやく、こぢんまりとしたプレハブ程の大きさの社の屋根が見えてきて、ゴールが見えてきた。
雑草だらけの鳥居の道を進み、何とか山頂に到達するとそこは直径百メートル程の円形の空間で、背の高い木々に囲まれてはいるが、微かに木漏れ日が差し込み、風通しが良く先ほどまでのうだる程の暑さを幾らか和らげてくれる。
空気が澄んでいて、ざわざわと草木の揺れる音と、み~んみ~んと鳴いている蝉の声がよりクリアに聞こえ、少し湿り気を帯びた冷たい空気を肌に感じ、マイナスイオンを身体全体で感じる程の思った以上に素敵な場所だった。
更に言えば、先ほど上ってきた道を振り返ると、夜桜市を一望できるそんな絶景スポットだった。
社をさっと見渡してみると、そこかしこにクモの巣が張っており、地面には落ち葉が溜まっていた。
しかし、よく見てみると足元には石畳が敷かれており、その両脇にはミニサイズの鳥居が三十本程続いており、鳥居を抜けた先にはこぢんまりとした本殿がある。
そこには三段ほどの小さな階段が設置されており、その奥に本殿がある。本殿は木製の扉と入口の方にはしめ縄が吊られていて、扉は閉ざされている。
扉の上部は木製の格子が嵌められており、本殿の中の様子が見えるが、奥の方は昼間ではあるが薄暗く、はっきりと見えず、分かるのは手前の方は板間になっているという事くらいだ。
また本殿の階段の手前側には奉納と書かれた木製の賽銭箱と神様へ来訪を知らせる鈴が、古ぼけた紅白の布を垂らして設置されていた。
どちらもやはり年季が入っており、経年劣化により板は反り返り、乾燥して微妙に剥げた跡があったり所々カビが生えていたり、苔が付いていたりで黒ずんでいた。
本殿の左手には手水舎らしき物が置かれているが、水が溢れているはずの場所には落ち葉が溜まっていて、桶や柱には苔やクモの巣が蔓延っており、木製の柄杓も老朽化して朽ちており使われた形跡はなかった。
その横にはアニメや漫画の田舎の井戸なんかにある手動式のポンプが設置されており、こちらは錆びてしまっていて動くかどうかは怪しい。
右手の方には社務所のらしき建物があり、こちらも本殿と同じく年季の入った木製の建物ではあるが鍵などは見当たらず、今時珍しい磨りガラス製の引き戸で、一部ヒビが入ってる様子だった。
後はまあ、木陰な事もあって多少はましだが、荒れ放題伸び放題の雑草が至る所に生い茂っており、この惨状を掃除して綺麗にしないといけないと考えると割と絶望してしまいそうだった。
「なんか…騙された?俺…」
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