第40話 ロロとシャル
とある特性のお陰で種族を問わずに好かれて、例え異種族男女混合ハーレムを築いたとしても誰にも苦言を呈されない。本物の『選民』とは、他でもないシャルルエドゥのことなのかも知れない。
話はまだ途中だったが、トリスが「お仕事ですよ~」と呼びに来てしまったため一旦スライムの巣エリアに戻って作業を再開することにした。アズは掃除機でスライムのゼリーを吸い込みながら、ふとロロを見やる。
「ロデュオゾロ先輩って、シャルルエドゥ先輩のどういうところがお好きなんですか?」
いきなりの問いかけに、ロロは手からタブレットを落としてエリア内にカタターン! という音を響かせた。そうしてあんぐりと口を開けた後、ぶんぶんと首を横に振った。
「――いやいや、べっ、別に好きじゃねえし! つーか、仕事中に無駄話しようとしてんじゃねえぞ新人!」
ロロは悪態をつきながら地面に落ちたタブレット拾い上げている。そんな彼の言葉に、エリア中央で大釜の面倒を見ていたシャルがすぐさま「そうか、僕はロロが好きだから少し残念だ」と呟いた。
そんなシャルの呟きをしっかり拾ったのか、ロロはタブレットの土埃をパンパンと手で払いながら尖った耳をピクリと震わせる。そしてやや大袈裟に肩を竦めると、シャルに背を向けたまま片手をヒラヒラと揺らした。
「はあ、ったく……リーダー、これが終わったら「収納」の中でチョコレートファウンテンやりますよ! ――――――それで、具体的に俺のどんなところが好きだって?」
「正にそういうところが好きなんだ」
「うーん、やっぱり、めちゃくちゃ好きみたいだ……しかも自ら仕事中に無駄話を求めたぞ――」
やはり双子で仕事のやり方が似ているのか、アズは業務に関係ない質問をしながらも仕事の手を止めない。あっという間にスライムを吸い込み終わったらしく、独り言に近い声量でロロにツッコミを入れながら大釜の傍までやってきた。
ロロはチッと大きな舌打ちをした後、壁とタブレットを見比べながら話し始める。
「好きとか嫌いとかじゃなくてだな……なんつーか、尊敬だ、尊敬。拾い上げてもらった恩もあるしな」
「ロデュオゾロ先輩は、アレですか? 自分らと違って、元々クレアシオンを希望した訳じゃなくて――こう、オツムがあの……アレがアレな感じで、致し方なくここにやって来た憐れな子羊と言いますか……」
「どれだけ言い方を捻っても、馬鹿だって言ってるのと何も変わらねえだろうが、ソレ」
「あ~……うん、よし! ――ロデュオゾロ先輩って、救いようのない馬鹿だったからクレアシオンに回されたんですか?」
「ドストレートに言えば許すって話じゃねえんだわ」
キリッとした表情で改めて言い直したアズ。ロロはこれでもかと眉根を寄せて、元気すぎる新人を睨みつけた。
クレアシオンに配属されるエルフと言えば、養成学校の卒業試験で成績不良のまま終わった生徒が主である。それはロロも例に漏れず、配属ダンジョンの指名ができぬまま最後の最後まで残った成績不良者であった。
「俺は、俺が生まれる前の神魔戦争がどうとか労役がどうとか、全部クソ食らえと思ってたんだよ。アズやチビシアだってそうだろうが、ただエルフに生まれただけでなんの関係もねえだろう? もちろんリーダーやダニエラさんも」
「……私たちは
トリスがやや複雑な表情で合いの手を入れたが、しかしロロは「結局『エルフ』とつく者は皆エルフだろうがよ、面倒くせえな」と吐き捨てた。
本来ハーフを
「その嫌々クレアシオンにやってきたロデュオゾロ先輩が、一体なぜシャルルエドゥ先輩信者に?」
「だから、そういうのとは違う。原状回復の仕事なんてしたくなかったし、どんなダンジョンに配属されたところで働く気はなかった。ただ……リーダーが
アズは興味津々と言った様子で瞳を輝かせて、ロロに先を促した。誰もが――自分自身さえも『謎の特性』が原因でシャルに惹かれているだけと言われて、納得できないのかも知れない。
周囲の者に聞き込みをして、総合的に状況を判断したいと考えているのだろう。
「リーダーはとにかく周りのことを見ているだろ? 誰のことも公平に見て、だからこそ色眼鏡抜きの評価を人にくだせる。俺がここに配属されて二、三日経った頃、いきなり「所作が几帳面だから倉庫番に向いていそうだな」と言われた時には……本気で意味が分からなかった」
「……なぁんだ、ロデュオゾロ先輩ってば悪ぶりながらしっかり働いていたんですね。ファッションヤンキーってヤツです? はは、ダサいッスね!」
「いや、全く働いてない――あとお前、今日仕事終わったら絶対にツラ貸せよ」
ロロの手元でタブレットがミシリと音を立てる。しかしアズは、軽く脅されたにも関わらず全く意に介していない様子で首を傾げた。
「あれ? ……もしかしてシャルルエドゥ先輩の相貌失認が火を吹きましたか? ロデュオゾロ先輩とどこかの真面目な先輩を誤認していたとか――」
「貴様、失礼すぎるだろう。僕だって好きで区別しない訳ではない、したくてもできない障害なんだ」
シャルは心外だとでも言いたげな表情で、スライム入りの水晶を吐き出し終わった大釜を「収納」にしまい込んだ。
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