第3話覚えてるよ
少し肌寒い朝だった。
「おはようございます」私が挨拶。
「おはようトオノ先生」彼が答える。
「顔色良いですね」私が微笑む。
「そうかな?」彼が見えない眼をこちらに向けて、微笑む。
彼は、67才男性「ジョシ」、来日40年以上の米国人、いや日本を愛する青い瞳の宣教師。高身長で、ややふくよかな体型。7年前に「糖尿病性網膜症」で両眼視力を失う。
数日前の回診時に、質問された。
「なぜ私は見えなくなったのでしょうか?」
「それは糖尿病DMの為に」少し慌てて私が説明しようとしたが、
「いえ神様に世界平和、争いの無い楽園を見せて下さいと願ったからです」
と彼は「いたずらっほく」笑った。
「私は病に苦しむ信者さん達に、魂の救済を説いてきましたが、いざ自分が末期癌と知って動揺を隠せません。毎日更新する信者向けのSNSでは大丈夫と強がっては居ますが、正直恐いのです。昨日サキノ先生に、この苦しみを初めて打ち明けた時に、慰める訳でも無く、じっと見つめて〈覚えて居るよ〉と答えてくれましたよね。心琴に触れた、と言うんでしたっけ、貴女がドアを閉めたあと、号泣してたんですよ。」自嘲気味に彼が呟いた。
強烈な光と共に彼の思念が私の全身に流れ込み、彼が見て来たもの、感覚が感情が私を包み込む。怯える小さな子供❨インナーチャイルド❩が手を繋いで来て何か呟く。
「Thankyouありがとう」
そう聞こえた気がした。
まもなく心電図モニターのアラーム音が鳴った。
ある秋の日の出来事、寒い日だった。
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