5 F-91
翌日の夜、まだ到着しない超弩級戦艦を待つマノスは、通路を歩くルーンブレイカーの戦闘主任に、背後から抱き着いた。
戦闘主任は、ルーンブレイカーの火器管制を一手に握り、先日の海賊船を情け容赦なく沈める行為を、直接実行した人物である。
「ヒヤアッ!」
しかし、その口から出たのは、とても戦いを生業にする人間の声とは思えない、乙女の悲鳴。
「あら、とても分厚い装甲を持っているのに、可愛らしい声を上げるのね」
「し、司令官閣下!」
戦闘主任は、背後から襲われたと思い、抱き着いてきた人物を、背負い投げにしようとしていた。
が、それが艦隊司令官であるマノスと気づいて、すぐさま行動を急停止させる。
投げ飛ばした後、顔面を蹴り飛ばし、それでも相手が意識を失わなければ、馬乗りになって拳を乱打しようとしていたが、すべて緊急停止だ。
ただ、急に動くのをやめたものだから、後ろから抱き着いてきたマノスの手を、自分の両手で大切そうに握るような姿勢になる。
「あなた、大きいわね」
「大きいって、何がですか?」
司令をボコボコにしなくてよかった、と思う戦闘主任。
だが、そんな思いを知ってか知らずか、マノスは不機嫌。
「このF―91よ!」
「ヒヤアアッ!」
マノスの両手がワキワキと動くと、戦闘主任は情けない声を上げた。
海賊船を沈める攻撃に、直接加担した人物とは思えない情けなさだ。
「私のなんて、これよ。
なのに、これはどういうことなの!このF-91は!」
背後に密着されているので、戦闘主任の背中にはマノスの大きな……いや、小さな感触が、ちゃんと伝わってくる。
ややヒステリーに叫ぶマノスは、戦闘主任のF-91を乱暴に操る。
「この操縦桿がいけないのよ。このっ、このっ」
怨嗟の声を出すマノス。
彼女が言う操縦桿を乱雑に扱い、メチャクチャに操作する。
戦闘主任は、あまりにも乱暴に操縦されるものだから、腰砕けになって、その場に崩れ落ちてしまった。
「し、司令、ダメです。こんなところ誰かに見られたら」
あまりの乱暴な操縦に衣服は乱れ、口の端から涎が垂れる戦闘主任。
体が高ぶって、体温が上がり、呼吸も激しくなってしまう。
「安心なさい。ここにはあなた以外誰も入ってこられないよう、司令官権限で命令しているわ」
「ええっ!」
なお、現在2人のいる場所は、ルーンブレイカー艦内の一般通路。
クルーであれば誰でも行き来できる場所で、いつクルーが通りかかっても、不思議のない場所だ。
そんな場所を、わざわざ出入り禁止にする司令官。
でも、そのおかげで、自分の醜態が誰にも知られないことに、わずかな安堵を覚える戦闘主任。
「でも、誰かに見られた方が、もっといい……あれっ、私ってば何を考えているんだろう」
気分が高ぶったせいか、戦闘主任は変なことを考えてしまう。
でもマノスは、彼女のそんな考えなんて全く知らない。
「世の中は不公平だわ」
F-91を、憎々しく睨みつけるマノス。
「で、でも司令のは、凄く形がいいじゃないですか。
確かに私のは大きいですけど、司令のすごく整った形に、いつも憧れているんです」
「当然よ、私のは完璧な形で、体型に最も合う大きさに作られているの。
でも、気に入らないわ。これが持てる者の、余裕なのかしら!」
「ヒィヤアアーッ!」
再び、マノスがF-91の操縦桿を握りしめると、情けない声を上げる戦闘主任。
この後戦闘主任は、ルーンブレイカーに用意されている、マノスの私室へ連れて行かれてしまった。
翌朝。
マノスは香り豊かなコーヒー片手に、自分のベッドの上でスヤスヤと眠りこける戦闘主任の寝顔を見て、微かに微笑んだ。
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