みだらなボタン

わたしのネ友の日記より。

そのネ友の孫娘は、11歳になる好奇心旺盛な少女。

今日も、母親と一緒に、

友だちの古いマンションに遊びに行きました。

いつものように、古いエレベーターに乗り込むと、

彼女は、ビックリしたように

ボタンを眺めているのでした。


「どうしたの?」

聴いてみると、少女は、そのボタンに書かれた文字を

指さしました。

「ここ、間違えてる。みだらなボタン、でしょ?」

母親は、ギョッとしてボタンを眺めます。

非常ボタンの赤い色は、

色っぽいと言えるかもしれないが

みだら、というほどでもない。


よく見るとその非常ボタンの上に注意書きが。

「このボタンに みだりに ふれてはいけません」

母は、ホッとしました。

「みだら、ではありません。

みだり、です」


「みだらだよお。書き間違えたんだよお」

少女は言い張ります。

母は、説明しました。


「みだり、というのは、古い言葉で、

気軽に、とか、正当な理由がなく、という意味があるの」


「じゃあ、みだら……は?」

母はグッと押し黙りました。

「あんた、どこでそんな言葉を覚えたのよ!」

逆ギレしてしまいます。


そのまま、エレベーターを降りて

友人宅へ。

友だちは、マンガを手に待っていました。

表紙に、「みだらな熱帯魚」。

「なにこれ」

目をつりあげると、友だちは、

「ん? 水泳部の話だよ?」


子どもは、どこで言葉を覚えるのかわからないね、というのが

そのネ友のオチでした。


わたしはふしぎに思いました。

この日までに、なんども友だちの古いマンションに

行ったことがあるはずの母子。

なぜ、いまさら、注意書きに気づいたのか?


ともあれ、最近は、そういう注意書きは見かけなくなりました。

古い言葉も消えつつあるようです。

昭和30年代と今とでは、店の看板も、

ローマ字表記が多くなりました。

だから、言葉の齟齬は、

もちろんあるわけです。


その子の将来のためにも、

色んな言葉を教えてやって欲しい。

そして、適切な言葉を使える子に

なって欲しいと願ってやみません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る