義母と散歩~ブルーなウクライナ

このところ、午前中は義母と散歩に出かけています。

ちかくに広い公園があって、

そこが義母のお気に入り。

風がやんでいたら、わたしといっしょに

ボール遊びもしています。


走り回る二歳児と、追いかけるおかーさん。

「三歳になってないから、幼稚園や

保育園に入れないのね」

義母は感想を漏らします。

照りつける太陽に、汗が出て来ました。


こんなとき、小説では、異変が起きます。

たとえば、過去からやってきたタイムトラベラーが

この公園を見て、腰を抜かすとか。


異界に通じる扉が、とつぜん開き

召喚されたわたしたちが勇者になって

いろんな冒険を繰り広げるとか。


もしかしたら強盗がやってきて

義母を人質にとって

わめきちらすところを

カッコイイ男がやっつけるとか


ひょっとしたら、地面に落ちていた宝くじが

10億円の当たりくじで

億万長者になっちゃうとか


想像は爆裂するんですが

公園はあいかわらず、平和です。

平和はときに、身勝手さを醸成します。


思い起こせばサークル会員が、

ウクライナの状態を見て

「戦争当時を思い出す」

と言っていました。


あの当時といまとでは、

彼女にとっては違いがないのです。

身につまされるし

つらくなってくる。


優しい人だな

と思っていたら、その人は、

「こんなことを言ったら不謹慎だけど……」

と、ためらいがちに、


「ウクライナの人たち、

早くロシアに降伏すればいいのに。

あの惨状を見てると、わたしは胸が張り裂けちゃう」


指導の先生が、

「でもそれじゃあ、ウクライナは国がなくなっちゃうよ」

と言うと、その人は、


「でも、日本だって原爆を2つ落とされて無条件降伏して

いま、ちゃんと国があるじゃないですか」


 平和であることの意味、国の意味。

 原爆の惨状を世界に訴えられなかった時代が

 日本にもあったことを、

 アメリカが言論統制したことを、

 彼女は知らないのです。


 義母といっしょに帰りながら、

 わたしは少し、ブルーになっていたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る