珍しい夫の病気

夫が再発して、また3日間入院。

こういう症例は非常に珍しい、と

ドクターは困惑したように言うのでした。


なぜなら、不整脈のもとになったバイパスは、

手術で灼けばなくなるはずで、9割の人がそれで助かっているのです。

しかし、今回の手術では、灼いたはずのバイパスが

まだ生きていて、それが悪さをしていたらしい。


一時的に心臓を止める薬を使ったという夫。

どんな感じかというと、

「心臓から血液がぜんぶ流れ落ちて、

空っぽになるような気持ち悪さ」

だったらしい。


心臓手術に使うカテーテルも、

通常のやり方を実行せず、

くるくる曲げて患部にあてたと

画像を見せつつ説明するドクター。


退院後に、夫が、病院付の喫茶店

ドトールで、コーヒーを飲みながら、

「こうなって良かったと思う」

と言うので、なにを言い出すのか、と

思っていたら、


「これでドクターは、希少な症例にも対処できる

スキルを身につけたんだ。

これだけ大きな病院になれば、そういう症状の

人たちだって、きっといるよ。

ぼくがその人たちの役に立てたってことだろ」


そのために、入院費を

余計につぎ込んでるんですけど!

と思ったけど、

考えてみると

わたしも、珍しい症例の精神病だからな。


薬があわなくて、なんども発病して、

今度やったら後遺症が残る、

なんて言われてるわたし。

しかし、ドクターにとってはわたしという患者は

研究材料にはなったかなー。

似た人の役には立つかも。


病気とか治療とかってのは

経験がモノを言うところがある。

科学は、再現性が重要視される分野だから、

希少な症例は、貴重な経験になるんだね。


それはわかるけど

モルモットみたいにされて

「こうなって良かった」なんて

わたしだったら口が裂けても言えそうにないなあ。


夫の方が、人格的にすぐれているのではと

思ってしまうのはこんなとき。

自己愛の強いわたしにとっては

「割れ鍋に綴じ蓋」な存在、

なのかもしれませんね。


ときどき、説教臭いのが玉に瑕。

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