今日より若い日はないけれど

どっどうどどうど どどうど どどう

青いくるみも吹き飛ばせ

すっぱいかりんも吹き飛ばせ

どっどうどどうど どどうど どどう


宮沢賢治の有名な、

『風の又三郎』冒頭からの引用です。

この、どっどう……の部分は、山から吹き下ろしてくる風を

そして、青いくるみ、すっぱいかりんは

未熟な若者を差して言っている、と

聞いたことがあります。


宮沢賢治は、若さというものに対して

あまり好意的な感情を持っていなかったのでしょうか。

たしかに若いと言うことは

未熟ということでもありますし

食するには少々、困難な場合もあります。


このあいだ、なにげに家事をしながらTVを見ていたら

「最近のお年寄りは、

昔よりもずーっと、

貫禄がないっていうか

『軽くなった』よね」

という女声が聞こえてきました。


わたしは、少し驚きました。

若いままでいいよね、という含みは、そこにはありません。

年齢を重ねたら重ねただけの

重厚さ、それが人間にあってほしい。

その人は、そんなふうに思っているのです。


今日より若い日はないと

一生懸命、若作りしているシニアたちに対して

『重厚さ』がないというのは、

思いやりがないのではなかろうかと

わたしは気がかりになりました。


若くなければ、健康でなければ

人に迷惑をかける。

家族の負担になりたくない。

だから、若いままでいたい。


シニアの願いは、そこにありますし、

世間的には、そういうシニアを応援する

風潮になっています。


わたしは眉を寄せながら、その言葉を脳裏で反芻しました。

もし、彼女の言うことが正しくて、

青いくるみのまま、年を取ってしまい

どっどうどどうどと風に吹かれて

時代に流されてしまうのが

いまのシニアだとしたら……?


熟さないまま年を取る。

精神年齢の低いまま、

年を取っていく。


どうなんだろう。それって、

周りを不幸にするかもしれない。

駄々っ子の親をなだめて

思い通りに動かして

財産を独り占めにする人もいるから

世の中は侮れないと思った一瞬でした。


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