最終話 本当に師匠は相変わらずですね

「……う……しょう……師匠!」


「ふえ!?」


 我に返る私。目の前には大きな建物。これまで何度も訪れている町の役所だ。どうやら、私が考え事をしている間に、目的地へ到着していたらしい。


「もう。また僕の頭の上で眠ってたんですか?」


 そう言いながら、弟子君は、三角帽子状態の私を頭から取り外す。


「ち、違うよ。ちょっと考え事してて」


「……まあ、いいです。それより、早く元の姿に戻ってください。あんまり時間ないですよ」


「わ、分かった」


 自分にかけていた魔法を解く私。三角帽子だった体が、一瞬のうちに元の姿へ。足の感覚を確かめるように、トントンと靴のつま先で地面を叩く。フワリと優しく吹く風が、白銀色の髪をなびかせる。


「じゃあ、行きましょうか」


「はーい」


 役所の入り口に向かってスタスタ歩く弟子君。そんな弟子君の後ろをノロノロ付いていく私。私たちの距離が、少しずつ開いていく。


 うーん……。


 昔のことを思い返していたせいだろうか。今、私の心は、弟子君に甘えたい気持ちでいっぱいだった。


「師匠。もっと早く歩いてください」


 不意に、弟子君が後ろを振り返る。


 ……あ、そうだ。


「弟子君。手、引っ張ってー」


 ニッと笑みを浮かべながら、私は右手を前に差し出した。


「ちょ! 自分で歩いてくださいよ!」


「やだー。引っ張ってくれないと歩けない」


「ええ……。って、時間が!」


 慌てた様子で私の方へ戻って来る弟子君。私の出した右手を見て、「はあ……」とわざとらしい溜息を一つ。その顔は、ほんのり赤みがかっている。


「本当に師匠は相変わらずですね」


 二人の手が、優しく優しく重なった。

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