第156話 ど、泥棒!?

 一週間後。お昼前。


「運搬完了だね。というか、君、荷物の量少なすぎでしょ」


「あ、あはは。まあ、最低限の物だけあればいいかなと思ってたので」


 結局、彼は、私の家に移り住むこととなった。最初は「ご迷惑になっちゃいます!」と断っていた彼だが、私が強く説得したことで、首を縦に振ってくれた。もしかしたら、彼は押しに弱い性格なのかもしれない。


「君の部屋はあそこね。家の中の物は自由に使ってくれていいから」


「はい。ありがとうございます」


 そう言って、彼はペコリと頭を下げた。


 彼にヒラヒラと手を振りながら、私は椅子に腰を下ろす。体が重くて仕方がない。


 比較的短時間で終わった引っ越し。だが、大変だったのも事実だ。魔法を使って荷物の入った箱を操作しながら、私と彼、二人乗りのほうきで空を飛ぶ。少しでも魔法のかけ方を間違えてしまうと、荷物が落下したり、ほうきがあらぬ方向に進んでしまう。神経をとがらせて魔法を使うなんて、久々のことだった。


 コンコン。コンコン。


 その時、不意に、玄関扉の叩かれる音が聞こえた。


「出てもらってもいい?」


「はい。分かりました」


 早足で扉に向かう彼。


 この時間に来といえば、多分あの子だろう。今日はどんな依頼を……。


 ……あれ? そういえば、あの子に彼のことをどう説明……ってまずい!


「ちょ! 君、まだ開けないで!」


 彼の背中に向かって私は叫ぶ。だが、どうやら遅すぎたらしい。


「……え?」


 彼が開けた扉の先。そこにいたのは、郵便屋の制服に身を包んだ私の友人。彼女は、彼の姿を見るなり、目を大きく見開いて固まってしまった。


「あ、えっと……初めまして。僕は……」


「ど、泥棒!?」


「うええ!?」


 懐から取り出した杖を構える彼女。両手を挙げて後ずさる彼。まさに一触即発。


 私は、急いで椅子から立ち上がり、二人の間へ割って入るのだった。

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