第154話 何なら毎日でも!

「ごめん。もう、大丈夫だから」


 まさか、シチューを食べて泣いてしまうなんて。恥ずかしさで今にも叫び出してしまいそうだ。先ほどから、顔が熱くて仕方ない。


「えっと……も、もしかして、お口に合いませんでしたか?」


 不安そうな表情でそう尋ねる彼。心なしか、声のトーンが少し下がっている。


「ち、違うよ。おいしかった。すごく、おいしかった」


「そ、そうなんですね。よ、よかったです」


「…………」


「…………」


 二人の間に生まれる沈黙。壁にかけられた時計が、一定のリズムで音を刻む。カチカチ、カチカチと。速いようで遅い。そんな、何ともいえないもどかしさ。


 このまま私が何も言わなければ、彼は一体どうするのだろうか。シチューを作るという当初の目的は果たされた。それはつまり、彼がここにいる理由が無くなってしまったというわけで……。そして、もしかしたら、もう二度と……。


 …………嫌だ。


「……ねえ、君」


 沈黙を破ったのは、私の声。


「な、何でしょう?」


「次、いつ会える?」


「……へ?」


「君のシチュー、また食べたい」


 久しぶりに食べたおいしいシチュー。私の求めていた懐かしのシチュー。彼との繋がりが無くなってしまえば、私は、彼が作ったシチューを食べることができない。そんなの、絶対に嫌だ。


 私の言葉に、彼の目が大きく見開かれ、そしてキラキラと輝き始めた。その輝きはまるで、夜空に浮かぶ星のよう。


「ぼ、僕はいつでも大丈夫です! 明日でも、明後日でも!」


「……そっか」


「あ。何なら毎日でも!」


「そ、そこまで!? あ、ありがとう」


 彼との出会いは今日が初めて。単なる偶然。彼と過ごした時間は、たったの数時間。だが、何となくこう思うのだ。彼との繋がりが、私にとって重要な何かをもたらしてくれると。

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