第153話 もう一度
コトコトとシチューが煮える優しい音。それはまるで、癒しを与える音楽のよう。私は、テーブルに頬杖をつきながら、台所に立つ彼をじっと見つめていた。
私のために料理を振舞ってくれる人がいる。しかも、それが今日会ったばかりである年下の男の子。今までの人生、いろいろな経験をしてきた私だが、こんなに不可思議な状況は初めてだ。まあ、そもそも、この状況を引き起こしたのは他でもない自分なのだが。
「魔女さん。もう少しでできますからね」
「はーい」
というか、彼はこの状況を受け入れすぎではないだろうか。調理器具の位置もいつの間にか把握してるし。やはり超人……。
「よし!」
どうやらシチューが完成したようだ。彼は、あらかじめ用意しておいた木製の皿に、鍋の中のシチューを注ぎ入れる。そして、ゆっくりとした足取りで、テーブルで待つ私の方へ。
「どうぞ。お口に合えばいいんですけど……」
目の前に置かれたシチュー。甘いミルクの香り。綺麗な白色。そこに浮かぶ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ。
彼が用意してくれたスプーンを使ってシチューをすくう。スプーンの上に収まりきらなかった液体が、トロリと白い海に戻っていく。
「えっと……じゃあ……いただきます」
私は、ゆっくりとスプーンを口へ運ぶ。
…………あ。
「魔女さん。ど、どうですか?」
もう一度、シチューをすくって口の中へ。
「魔女さん?」
もう一度。
「えっと……あ、あのー」
もう一度。
「…………」
何年ぶりだろうか。こんなシチューを食べたのは。おいしくて。温かくて。そして、どこかクセになる。決して豪華というわけではない。お肉なんて豪華なもの、入っているはずもない。それでも……それでも……それでも……。
「ま、魔女さん!? な、何で泣いて……」
私が求めていたもの。それが、今、確かに存在していた。
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