第152話 本当に反省してる?
「大丈夫? 落ち着いた?」
「……はい。申し訳ありません」
「何回言うの、それ」
彼の口から出る『申し訳ありません』。さて、この数分で何度同じ言葉を聞かされただろうか。少なくとも、両手の指で数えられないくらいにはなっているはずだ。
「その……僕、孤児院で暮らしてた時に、年長者ってことで、掃除とか洗濯とか料理とか、いろいろ手伝わされてまして。自分の性格的にも、家事みたいな仕事は性に合ってたっていうか……」
しょんぼりと俯く彼。その顔に、もうツヤツヤとした輝きは微塵もない。先ほどより体の震えは収まったが、まだ腕の辺りはプルプルと小さく震えている。反省という言葉がこれほどまでに似合う姿というのもそうそうないだろう。
というか、そもそも私はそこまで怒っていない。だから、反省され過ぎるのはどうにも居心地が……。
「魔女さんの家があまりに汚……こ、個性的な感じだったので、つい……」
あれ? 今、酷いこと言おうとしなかった? 本当に反省してる?
「はあ……まあ、別にいいからさ。とりあえず、シチュー作ってもらってもいい?」
「も、もちろんです! 誠心誠意、全力で作ります!」
そう言いながら、彼は勢いよく椅子から立ち上がった。彼が服の袖をまくると、ほんのりと小麦色に焼けた腕があらわになる。そういえば、彼は魔法薬作りで生計を立てていると言っていたっけ。仕事柄、外を歩く機会も多いに違いない。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「掃除してる時に気になったんですけど、鍋に入ってた紫色の液体って何だったんですか?」
彼の質問に、私はニコリと無言の笑みを返す。自分で作ろうとして失敗したシチューだなんて、口が裂けても言えなかった。
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