第六章 大人で子供な私のことを

第146話 なんで疑問形なの

「仕事やだー」


「我慢してください。また役所から催促の手紙が来てるんですから」


「むう……分かったよ」


 今日もダラダラしたかったのになあ……。


 弟子君の説得に、仕方なく椅子から立ち上がる私。魔法で杖を取り出し、魔力を込めながら自分の頭をちょこんと叩く。すると、一瞬にして自分の体が変化し、目線が急激に低くなる。


「……師匠。たまには自分で移動しません?」


「や!」


「はあ……」


 溜息をつきながら私を持ち上げ、頭の上に載せる弟子君。


 そう。今の私は、弟子君専用の三角帽子なのだ。


「じゃあ、弟子君、よろしく」


「了解です」


 私が弟子君に甘えて、弟子君がそれを受け入れる。こんなやりとりを、今まで何度繰り返してきただろうか。百回? 二百回? いや、もっと多いかもしれない。


 ほうきを手にした弟子君が、家の玄関扉を開ける。視界に広がるたくさんの草花と木々。肌を撫でる優しい風。ほんのり湿った土の香り。


「……ねえ、弟子君」


「何ですか?」


「……ありがとね」


 私の言葉に、弟子君の肩がビクリと大きく跳ねるのが分かった。顔は見えないが、きっと目を丸くしているのだろう。


「き、急にどうしたんですか!?」


「んー。何となく」


 そう。本当に何となく。弟子君に、お礼を言いたくなってしまったのだ。


「何となく……ですか。ま、まあ……えっと……ど、どういたしまして?」


「なんで疑問形なの」


 思わず笑みがこぼれる私。そんな私の脳裏には、あの頃の光景がよみがえっていた。

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