第145話 ウへヘ

「これで最後っす」


「やっと……」


 ズンッと疲労感がのしかかっているボクの体。まさか、五十個も質問があるなんて。今更ながら、安請け合いした自分を憎んでしまう。


「最後は……読者に向けて一言っすね」


「一言か。うーん。思いつかない」


 いきなり何か一言といわれても、早々に思いつくものではない。仕事に対する意気込みを言えばいいのだろうか。それとも、会社のアピールを……。


「何でもいいっすよ」


「いや、何でもいいが一番難しいんだよ」


「ふむ。……なんなら、それっぽいことを私が適当に書いておくっすよ。先輩もお疲れでしょうし」


「いいの? じゃあ、任せるよ」


「了解っす! ウへヘ」


 ……何? 最後の「ウへヘ」って。







 数日後。


「おはようございます。郵便屋さん」


「おはよう。弟子ちゃん。今日も依頼持ってきたよ」


 魔女ちゃんと弟子ちゃんが住む家の玄関先。ボクは、依頼の手紙を弟子ちゃんに手渡した。


「ありがとうございます」


 ニコリと笑い、両手で手紙を受け取る弟子ちゃん。それを見て、ボクの心はポワポワと温かくなる。


 いつからこうなっちゃったんだっけなあ……。


「あ、そうだ。郵便屋さん、ちょっと待っててください」


 弟子ちゃんは、突然そう言って家の中に入っていった。数秒後、戻って来た弟子ちゃんの手には、一冊の雑誌が。


「昨日、買い物で町へ行った時、後輩さんに会いまして。郵便屋さんのインタビューが載ってるって教えてもらったので、ついつい買っちゃいました」


「へ、へー。ちょっと恥ずかしいね」


 そういえば、昨日が発売日だったっけ。本当なら、発売前に記事の見本を見せてもらいたかったのだが……。


 ペラペラと雑誌のページをめくり始める弟子ちゃん。パッと開かれたページには、『会社エースの素顔に迫る!』の見出し。


「それでですね。聞いてみたいことがあったんですけど……」


「ん? 何かな?」


「最後のこれ、本当に郵便屋さんが言ったんですか?」


 弟子ちゃんが指で示した部分。後輩ちゃんに任せた、『読者に向けて一言』の項目。そこには、このように書かれていた。


『恋するボクっ娘! 会社のエース! 今日もお仕事頑張るゾ♡』


 …………


 …………


「ねえ、弟子ちゃん。その雑誌、ちょっと借りてもイイ?」


「は、はい。それはいいんですけど……ゆ、郵便屋さん」


「ナニ?」


「か、顔が……怖いんですが……」


「キノセイダヨ。アハハハハ」


 その日、会社中に後輩ちゃんの悲鳴が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る