第117話 からかわないでください

 先日見た、師匠と旅の魔女さんとの勝負。改めて実感した、師匠と僕との間にある大きな大きな実力の差。勝負の後に旅人さんが語ってくれた、「自分で自分を裏切りたくない」という言葉。


「師匠に追いつくのは難しいですけど、やっぱり、自分の身は自分で守れるようにならないとなって思ったんです。まあ、あわよくば、師匠がピンチの時に、僕が師匠を守れたら……みたいな」


 僕は、地面をじっと見つめながら、まるで独り言のように言葉を漏らします。


 熱さを増す顔。バクバクとうるさい心臓の音。郵便屋さんは、僕が師匠に好意を懐いていることを知っています。そんな郵便屋さんに話すのでも、こんなに緊張してしまうなんて。もし、同じ話を師匠に伝えたとしたら、僕の体はどうなってしまうのでしょうか。全く想像がつきません。


「魔女ちゃんも愛されてるねー」


「からかわないでください」


「ニヒヒ。ごめん」


 地面を見つめる僕の目に、郵便屋さんの顔は映っていません。でも、きっと、ニヤニヤ笑っているんじゃなでしょうか。


「……ねえ、弟子ちゃん」


「からかわないでください」


「ま、まだ何も言ってないよ」


「念のためです」


 からかい好きの郵便屋さんのことですからね。早めに先手を打っておいて損はないでしょう。


 僕の脳裏に、郵便屋さんにからかわれたあの日の光景がよみがえります。「ボクの、恋人にならないかい?」と郵便屋さんが迫ってきて。それで……。


「えっと……弟子ちゃんはさ」


「はい」


「ボクがピンチの時はどうする?」


「…………へ?」


 郵便屋さんの質問に、僕の思考が一瞬停止します。思わず、郵便屋さんの方に顔を向けると、そこには、薄い笑みを浮かべた郵便屋さんがいました。


「もしボクがピンチになった時、ボクのことも守ってくれる?」

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