第118話 よし、帰ろう!

「……郵便屋さん?」


「…………」


 僕をじっと見つめる郵便屋さん。顔に浮かぶ薄い笑み。その向こう側に何があるのか。僕には全く分かりませんでした。


 だから……。


「なんで、そんな当たり前のこと聞くんですか?」


 僕は、ありのままの疑問をぶつけたのです。


「あ、当たり前?」


「はい。そうですけど」


「じょ、冗談とかじゃなくて?」


「冗談なわけないじゃないですか」


 僕と師匠は、郵便屋さんにたくさんの恩があります。郵便屋さんがいなければ、僕たちのもとに仕事がやって来ないわけですからね。といいますか、たとえそうでなかったとしても、友人がピンチにあっているのに助けないなんて選択肢、僕は持っていないのです。


「そ、そうなんだ……えっと……あ、ありがとう」


 そう言って、郵便屋さんは、クルリと僕に背中を向けて座り直しました。両手を頬に当て、「はあ」と小さな溜息を吐いています。いや、溜息というよりは、深呼吸……でしょうか? どうしてここで深呼吸をしているのかは分かりませんが。


「あの、郵便屋さ」

「二人で何してるの?」


 突然、家の方から聞こえた声。振り向くと、そこには、家の窓を開けてこちらを見る師匠の姿がありました。とろんとした寝ぼけ眼。ぼさぼさになった白銀色の髪。明らかに寝起きですね。


「師匠、おはようございます」


「魔女ちゃん、おはよう」


「うん。おはよう。なんか、おっきい音がずっと響いてたんだけど……」


 どうやら、郵便屋さんとの特訓中に響いていた音が、師匠を起こしてしまったようですね。昼夜逆転している師匠を起こす手間が省けました。


「実は、魔法の特訓してたんですよ」


「そうなんだ。二人きりで?」


「はい」


「…………へー」


 あれ? どうしたんでしょうか? 急に、師匠の様子が……。


「よし、帰ろう!」


「ゆ、郵便屋さん!?」


 いつの間にか、僕の隣で座っていた郵便屋さんがほうきに乗っています。そして、「さらば!」という声とともに、遠くへ飛び去ってしまいました。それはまるで、猛獣から逃げる草食動物のごとし。


「弟子君」


「し、師匠?」


「ちょっと、お話ししようか」


「べ、別に、僕、やましいことは……」


「お話ししようか」


「…………はい」

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