第112話 シチュー作れる?

 男の子の肩には小さなポシェット。ポシェットの口からは、細長い赤色の草がちらりと顔をのぞかせていた。確かあれは、魔法薬の材料になる薬草だったはず。薬草を採りに迷いの森へ入ったはいいが、魔獣に出くわしてしまったというところだろう。


 彼を追いかける魔獣は、迷いの森に何頭か生息しているオオカミの仲間。だが、普通のオオカミとは異なり、頭を二つ持っている。群れを作る種ではなく、見た目のわりに力もそこまで強くはない。


 私は、魔法で杖を取り出し、その先を魔獣に向ける。杖に魔力を込めると、青白い光とともに、魔力の塊が発射された。それは、ものすごいスピードで魔獣にぶつかり、「ドン!」というものすごい音とともに、その体を吹き飛ばした。


 こちらを振り向いた彼と目が合う。年齢は、おそらく私よりも下。細身のパンツにパーカー。その額にはキラリと光る汗。混乱した様子の彼は、何も言わずにただ私を見つめていた。


 さて、助けたはいいけど、この後はどうしたらいいのかな? 「大丈夫?」って聞くべき? それとも、「怪我はない?」とか? いや、いっそのこと、何も言わずに立ち去るって手も……。 


 その時、ふとある考えが頭をよぎる。突拍子もなくて。不思議で。どこか笑ってしまうような。そんな考え。


 単なる気まぐれ? 好奇心? よく分からない。けれど、何となく聞いてみたい。


「ねえ、君」


「は、はい」


 彼の声からは、確かな緊張がにじみ出ている。私は、彼に警戒されないよう、ゆっくりと優しくこう告げた。


「シチュー作れる?」

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