第111話 なんてね
あの後、再度シチューを作ろうとしたが、また失敗。謎の物体が増えただけ。食材は多めに買っておいたから、もう一度チャレンジしようと思えばできる。だが、もうそれをする気力はなかった。
「シチュー……」
町のレストランにでも行こう。ああ。でも、あそこのシチューは何かが違うというか。私が食べたいシチューは、もっと家庭的な……手作り感満載の……。
…………
…………
作ってくれる人、いないかな。
…………
…………
なんてね。
私は、部屋の隅に置いていたほうきを手に取り、再度、家の外に出た。玄関扉を開くと、昼の温かい空気が頬を撫でる。木々の揺れる音。少し湿った土の香り。
ほうきにまたがり、ゆっくりと上空へ。そのまま、町のレストランに向かってほうきを走らせる。パタパタと揺らめくローブ。風になびく白銀色の髪。飛ぶ鳥の横を通り過ぎながら、ひたすらに前へ。前へ。前へ。
その時だった。
『神様のバカ―!』
突然聞こえた叫び声。私は、ほうきを上空で停止させた。そのまま、辺りをキョロキョロと見渡す。幻聴でないことはすぐに分かった。
『誰か助けて―!』
再度、叫び声が聞こえたから。
声のした方へほうきを飛ばす。森の上から声の主を見つけるのは、大量の木々の葉が視界を遮ることもあって困難だ。私は、地面が見える位置までほうきを下降させ、幹の間を飛び回りながら、声の主を探す。
数十秒後。私の目に映ったのは、全力で走る男の子。そして、それを追いかけている一体の魔獣。
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