第104話 なんで……ここに……

 そんなある日、驚くべきことが起きた。


 コンコン。


 朝。突然聞こえた音に、私の肩がビクリと跳ねあがる。


 それは、明らかに玄関扉を叩く音だった。今まで、この家に誰かが訪ねてきたことはない。私は、恐る恐る扉に近づき、ゆっくりとそれを開いた。


 室内に流れ込むさわやかな風。木々の香り。私の目に映るのは、一人の女性。


「…………え」


 私の口から思わず漏れる言葉。その言葉に答えるように、女性は少し首を傾けながらニコリと笑みを浮かべる。女性の動きに合わせて、その整えられた短い黒髪が小さく揺れる。


「魔女ちゃん、久しぶり!」


 私のことを「魔女ちゃん」と呼ぶ女性。そんなの、この世界に一人しかいない。


「なんで……ここに……」


 それは、かつての友達。軍のお偉いさんの一人娘。







「へー。この家、魔女ちゃんが作ったんだ。やっぱりすごいね」


 椅子に座り、家の中をキョロキョロと見回す彼女。正直、あまり見ないでほしい。ろくな家具もないし、掃除もほとんどしていないから。


「それで、どうしてあなたがこんな所に?」


 私が祖国を出てから数年。当てもなく旅をし、この国に落ち着いた。祖国とこの国との間には、とてつもない距離がある。それなのに、今、彼女はここにいる。不思議で仕方がなかった。


 私の質問に、彼女は、ニッと子供のような笑みを浮かべてこう答えた。


「魔女ちゃんに会いたかったから」


 それは、どこか懐かしさを感じる言葉。


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