第105話 ボク、何か驚くようなこと言った?

 なんと、彼女は、私が軍からいなくなった後、必死で私の居場所を探していたらしい。だが、国を出たばかりの私は、当てもなくあちこちを放浪していたため、なかなか足取りがつかめなかったのだそうだ。


「いやー。苦労したんだよ。ボクのお父さんに頼みこんで、いろんなところに声かけてもらってさ」


「いろんなところって?」


「そりゃ、各国の……。おっと、これは言っちゃいけないやつだった」


 ペロリと舌を出して笑う彼女。私の背中に冷たい汗が流れる。


 そういえば、以前、魔法石の修理を頼んできた男の人が、私の住んでいる所を執拗に聞き出そうとしてたっけ。


 まさか、あれって……。


「……そ、そういえば、あなた、ここまでどうやって来たの?」


 これ以上、深く考えてはいけない気がする。私は、えもいわれぬ恐怖を押し殺しながら、話題をそらした。


「ほうきで飛んできたんだよ。まあ、距離が距離だったから、来るまでかなりの日数かかっちゃったけど」


「……へ?」


「……あれ? ボク、何か驚くようなこと言った?」


「ほうきで飛んできたって……あなた、魔法使えたの?」


「うん。……あ、言ってなかったっけ?」


 彼女の言葉に、私はゆっくりと首を縦に振った。


「魔女ちゃんほどではないけどね。昔から、ボクもある程度の魔法は使えたんだ」


「…………そう」


 まさか、彼女が魔法使いだったなんて、全然知らなかった。いや、そもそも、私は、彼女の何を知っているのだろうか。軍のお偉いさんの一人娘。軍人にあこがれている。からかい好き。人柄がいい。それから……それから……。


 …………


 …………


「……魔女ちゃん?」


 彼女の声に、私はハッと我に返る。目の前には、怪訝そうにこちらを見つめる彼女の顔。


「ごめん。ボーっとしてた」


「そっか。大丈夫?」


「うん」


 不意に、部屋の中が少し暗くなる。どうやら、太陽に雲がかかったのだろう。窓から差し込んでいた朝日は、しばらくの間、その輝きを取り戻すことはなかった。

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