第100話 なんで
軍事施設にある食堂。テーブルで一人、味のしないパンをかじる。
「…………」
「…………」
「…………」
周囲の冷たい視線。それは、私の存在を否定しているかのよう。憶測は憶測を呼ぶ。私に対する噂は、ますますひどくなる。
私はただ頑張っていただけなのに。自分が早く大人になるために、自分が認められるために、必死で努力しただけなのに。
なんで。
なんで。
なんで。
「おい」
「…………」
「おい!」
「…………」
「おい! 聞いているのか!」
「……へ?」
不意に、誰かが私を呼んでいることに気が付く。声のした方を振り向くと、険しい表情をした教官が立っていた。
「す、すいません!」
私は、椅子から立ち上がり、教官に向かって勢いよく頭を下げた。考え事をしていましたなんて言い訳は通用しない。こういう時は、下手なことを言わず、すぐに謝った方がいいのだ。
「何をボーっとしているんだ」
「はい。本当に申し訳ございません」
「まあいい。それより、お前に呼び出しだ」
「呼び出し……ですか?」
「ああ。軍の上層部からな」
軍の上層部からの呼び出し。それが何を意味するのか、私には全く分からなかった。
だが、すぐに知ることになる。戦場において、私が意図的に味方を攻撃し、手柄を横取りしたという話が、上層部で話題になっていたことを。
もちろん、身に覚えのない話だ。私は、必死にそれを否定した。
「そ、そんなこと知りません!」
「知らないと言っても、目撃証言もある。言い逃れはできないぞ」
「目撃証言?」
「ああ。お前の同期全員が、それを見たと言っているんだ」
私の同期。私と同じタイミングで軍に入った五人の男の子。彼らが……。
その瞬間、私はすべてを理解した。彼らが、結託して私を軍から追い出そうとしていたことを。嘘の噂を流し続けていたことを。
この後の話は、よく覚えていない。私は、ただひたすらに、から返事を繰り返した。もう、弁明しても無駄だと思った。そして……。
「今回、我々は、君を国外追放することを決定した」
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