第99話 曰く
「えっと……」
二日後。私の前に現れた彼女は、いつになく様子が変だった。ソワソワと体を動かし、目は上下左右に行ったり来たり。私に何かを言おうとして、すぐに口をつぐむ。
そんな彼女を見て、私は理解した。私が施設で避けられている理由。それが、とてつもなく言いづらいのだと。
「あのこと、聞いてくれたんだよね」
「……う、うん。ちゃんと聞いたよ」
「教えて」
「……で、でも」
「いいから。教えて」
自分がひどいことをしているのは分かっていた。唯一の友達に、言いづらいことを無理やり言わせようとしているのだから。だが、どうしても理由を知りたいという気持ちが、私の中のブレーキを完全に壊してしまっていた。
「わ、分かった」
彼女は、ゆっくりと告げる。今現在、施設に流れている私の噂を。
曰く、私は、非合法な方法によってとてつもない量の魔力を手に入れたらしい。
曰く、私は、敵国に雇われたスパイであるらしい。
曰く、私は、軍のお偉いさんに気に入られるため、性的奉仕をしているらしい。
「どう……いう……こと?」
頭から冷水をかけられたように、体温が急激に低下する。唇が震え、上手く言葉を発することができない。私の心全体を、黒い靄のようなものが覆いつくす。
一体誰がそんな噂を流したのか。どうしてそんな噂を流したのか。私に何か恨みでもあるのか。分からない。本当に、分からない。
「ボクは信じないよ。絶対に。魔女ちゃんは、そんなことするような人じゃない」
真剣な瞳でそう訴える彼女。だが、彼女の言葉は、私の心に生まれた靄を晴らしてはくれなかった。
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