第40話 ちゃんとしてるよ

「じゃ、じゃあ、さっそく配達に行こう!」


 会社の外。郵便屋さんは、気持ちを切り替えるように、元気よくそう告げました。そんな郵便屋さんの目には、うっすらと涙の跡。先ほど、師匠からのおしおきを受けた証が、はっきりと刻まれていました。


「とりあえず、この地図通りに配達していけばいいんですよね」


「そうそう。手順とかクレームを受けた時の対処法とかは大丈夫?」


「はい。さっき郵便屋さんに教えてもらったことはメモしてますので。後は慣れるだけです」


「ん。よろしい」


 郵便屋さんは、満足そうに頷いた後、手に持っていたほうきにまたがりました。次の瞬間、ふわりとほうきが浮き上がり、あっという間に上空へ。


「分からないことがあったら知らせてね。それじゃ」


 フリフリと手を振り、郵便屋さんは遠くへ飛んで行ってしまいました。


「僕たちも行きましょうか」


 僕は、自分の頭上に向かって語りかけます。そこには、真っ黒な三角帽子。働く気のない師匠の姿。


「りょうかーい。弟子君、頑張ってね」


「……僕、師匠も一緒に仕事してくれるのかと思ってました」


「ちゃんとしてるよ」


「…………?」


「弟子君の監視。またあの子にちょっかいかけられないように」


「何ですかそれ……」


 おそらく、師匠の頭の中には、昨日の出来事が映し出されているのでしょう。郵便屋さんが、僕に告白したあの出来事が。


 あれは、ただのからかい。多忙ゆえの、ただの出来心。だから、そこまで警戒するようなこともないと思うのですが……。


 僕は、首を傾げながら、自分のほうきにまたがるのでした。

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