第39話 理由になってません!

「いや、本当にごめん。そう伝えた方が面白いかなと思って」


「理由になってません!」


 なんと、僕と郵便屋さんが恋人同士という話は、会社全体に伝わっているそうで。室内にいる職員さんたちの多くが、仕事の手を止め、ニヤニヤ笑いながら話をしているのが聞こえてきます。


 例えば……。


『お、朝からお熱いね』


『幸せオーラが出てるよ』


『痴話げんかってやつだな』


『……あの男の子、略奪愛とか興味あるかしら』


 …………最後のは聞かなかったことにしよう。


「ま、まあ、広まっちゃったものは仕方ないしね。気持ちを切り替えて、仕事頑張ろう」


「……もう帰りたいんですが」


「ちょ、待って待って。弟子ちゃんに帰られると、ボク、本当に困るから」


 グイッと僕のローブを引っ張る郵便屋さん。見るからに焦ったその様子に、僕は「はあ」と小さく溜息をつきます。


「……別に、仕事を途中でやめたりなんてしませんよ。その代わり、後で職員さんたちにちゃんと訂正しておいてくださいね」


「りょ、了解」


 郵便屋さんは、ビシッと僕に向かって敬礼しました。郵便屋さんが身にまとう軍隊のような制服。そして、敬礼。様になるというのは、こういった時に使う言葉なのでしょう。敬礼に至るまでの経緯はあれですが。


「……ふああ。ん? 弟子君。何であの子は敬礼してるの?」


 突然、頭上から師匠の声。どうやら、師匠が目を覚ましたようです。


「おはようございます。師匠。あの敬礼は…………何でしょうね?」


 師匠の質問に、僕は、わざと分からないふりをしました。本当のことを言おうとも思いましたが、あえて誤魔化した方が適切でしょう。もし、師匠が、『僕と郵便屋さんが恋人同士ということになっている』なんて知ってしまったら、一体どうなることやら……。


『まさか、仕事命だったあの子に、あんな年下の彼氏ができるなんてね』


 …………あ。


 …………


 …………


「……クワシク」


 師匠の声は、これまで聞いたことがないほど迫力に満ちていました。

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