第28話 ……ありがとう、弟子君
「うええ……まずい」
「……本当ですね」
僕たちは、紫色のシチューを、それはそれは苦い顔を浮かべながら食べていました。
この味をなんと表現していいものか分かりません。甘いような、辛いような、苦いような。まあとにかくおいしくありませんでした。
「……弟子君」
「何ですか?」
「ごめんね。手伝ってもらったのに」
師匠は、少し下を向きながら申し訳なさそうにそう告げました。
「……別に、いいですよ。誰にだって失敗はあるんですから」
そういえば、これだけ料理下手な師匠は、僕と会う前は一体どんな食事をしていたのでしょうか。もしかしたら、町で買ってきた出来合いの物ばかりを食べていたのかもしれません。師匠のことだから、きっと晩御飯と称してお菓子しか食べない日があった可能性も。
「とりあえず、今日の晩はおいしいもの食べましょうね。僕、頑張って作りますから」
僕は、精一杯の笑顔を浮かべながらそう告げます。師匠が元気を取り戻せるように。僕の作った料理を食べて幸せそうに笑う師匠の顔を見ることができるように。
僕の言葉に、師匠は下に向けていた顔を元に戻しました。僕と師匠の視線が交差します。どうしてでしょうか。ルビーのように綺麗な師匠の赤い瞳。そこにキラリと光が灯ったように見えました。
「……ありがとう、弟子君」
師匠は、優しく微笑みながらそう言いました。
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