第22話 私のことを『これ』呼ばわりは失礼だなあ

 あれから三日後。


「おーい。弟子さーん」


 湖の近くにやってきた僕。そんな僕に向かって手を振る少女が一人。


「様子、見に来たよ。元気にやってる?」


「はい! お二人のおかげです!」


 元気にそう答える彼女の正体は、先日の一件で大泣きしていた少女です。


 あの後、僕と師匠は、事の経緯を役所に行って説明しました。わざとでないとはいえ、魔法薬作りに影響を及ぼしてしまったことは事実。最初は、罰金か何かをという話も出ていました。ですが、僕たちが、町長さんや他の役人さんを説得したことで、厳重注意だけで終わりました。


 ちなみに、湖にかけられた魔法についてですが、一日かけて師匠が元通りに戻してくれました。町長さんが、「報酬として高級なお菓子を……」とこっそり師匠に話していたような気もしますが、きっと気のせいでしょう。お菓子につられて仕事をするなんて、さすがの師匠でも…………ハハハ。


「君、今日もここで特訓してるんだね」


「そうですね。まあ、前とは違ってちゃんと離れた所でやってます」


 そう言って、えっへんと胸を張る少女。


 僕たちがいる場所は、湖の周囲に植えられた木よりもかなり外側。ここなら、湖の水に妙な影響が出ることはないでしょう。


「そういえば、今日は、師匠さんはいないんですか?」


「え? いるけど……ああ、君には説明してなかったね」


 僕は、頭の上の三角帽子を取り、少女に手渡しました。不思議そうにそれを受け取る少女。


「えっと、これ、なんです……」


「私のことを『これ』呼ばわりは失礼だなあ」


「へ!? ぼ、帽子がしゃべった!?」


 少女は、三角帽子を手放し、尻もちをつきました。


 空中にフワリと浮いた三角帽子。次の瞬間、三角帽子が消え、一人の女性が姿を現しました。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは真っ黒なローブ。


「こら! 人を勝手に投げないの!」


「し、師匠さん!?」


 尻もちをついたまま目を丸くする少女。その姿に、僕は思わず笑ってしまうのでした。

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