第23話 ……それはそれとして

「そういえば、ずっと気になってることがあったんですけど……」


 湖からの帰り。僕は頭の上の三角帽子に向かって問いかけました。


「何かな?」


「師匠、町長さんたちを説得するとき、いつも以上に熱心じゃありませんでした?」


「……そう見えた?」


「はい」


 師匠は、基本、自分に利益がないようなことに対しては消極的です。それは、これまで師匠と生活してきて嫌というほど知っています。でも、先日見た、少女のために町長さんたちを説得する師匠の姿は、どこかいつもと違っていました。まるで、何かに突き動かされているかのようだったのです。言い換えるなら……鬼気迫る……みたいな……。


「……まあ、そうかもね」


 師匠は、ゆっくりと言葉を紡ぎます。それは、質問をした僕に語っているようでもあり……。


「一生懸命頑張ってたあなたは、知らないうちに悪者になってたんです……って言われて、そこに何の救いもないなんて、おかしいよ。絶対に」


 自分自身に言い聞かせているようでもありました。


「……なるほど」


「…………」


「……それはそれとして。師匠」


「どうしたの?」


「昨日、戸棚に入れておいたお菓子が、今朝見たらなくなってたんですが……」


 …………


 …………


 おっと、どうしたことでしょうか。師匠が反応してくれませんね。あれ? 何だか、頭の上の三角帽子が、フルフルと揺れているような。まるで、何かに怯えているみたいですね。ハハハハハ。


「師匠、もしかして、勝手に食べたりなんて……シテマセンヨネ?」


 …………


 …………


「ご、ごめんなさいー!」


 師匠の叫び声が、空いっぱいに広がりました。

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