第6話 最後に、ビューンみたいな……

 家の玄関扉を開けると、僕の目にたくさんの草花と木々が映りました。そう。僕と師匠が住んでいるのはとある森の中。高い木々が生い茂り、太陽の光を遮るそこは、『迷いの森』として有名です。特別な事情がない限り、誰も入ろうとはしません。


 ですが、そんな『迷いの森』にも、唯一、太陽の光がさんさんと降り注ぐ広めの土地が存在します。そこに建っているのが、僕と師匠の住む家です。


 僕は、手に持っていたほうきにまたがり、上空へと浮き上がりました。木々の高さを少し越したくらいまで上昇し、ゆっくりとほうきを前進させます。


「弟子君も成長したねえ」


 不意に、頭の上に載った師匠がそう呟きました。


「何がですか?」


「ほうき。もう扱いは完璧だね」


「まあ、たくさん練習しましたから」


「ふふふ。私の教えのおかげでもあるよね」


 今、僕の目に師匠の顔は映っていません。ですが、何となく、ドヤ顔を浮かべているような気がします。


「…………」


「……え? なんで無言になるの?」


「いえ。別に……」


 僕の脳裏に、あの頃の光景がよみがえりました。大量のお菓子を作ることを条件に、師匠からほうきの飛び方を教わろうとしていたころ。


『まずは、グワーって感じで……』


『そこから、フニャーって力を抜いて……』


『最後に、ビューンみたいな……』


 …………


 …………


 ……ハハハ。


 そもそも、師匠は、ほとんど僕に魔法を教えてはくれません。たまに、気まぐれで教えてくれることもありますが、その教え方は酷いものです。天才は教えるのが下手という言葉をどこかで聞いたことがありますが、師匠はまさにそれですね。


 結局のところ、僕の魔法に関する技術のほとんどは、本を見ながら独学で身に付けたものなのです。


 僕って、師匠の『弟子』だよね……。

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