第2話 ムーン・リバー

ここは山の中

君と僕

ふたりきり


新調したテントを張る

ふたりきりでキャンプ




夕暮れ

薄暗くなり

折りたたみ式のリクライニングチェアを2つ並べる


ふたりから少し離れたところに

肉を焼いた焚き火は

赤と黄色の炎を

小さく弱々しく

ゆらゆらと揺らしたまま

山の夜の暗闇に溶けている


ふたりきり

夜、山の中

暗闇


テントを張った谷底からふたり並び

リクライニングチェアに寝転がる

毛布に包まり

空を観る



落ち窪んだ谷底から見える夜空は狭く

煌々〈きらきら〉と輝く星たちが敷き詰められている


時々ひとつづつ星が流れてゆくのが観えた


夜、山の中

ふたりきり

暗闇



星のチカチカと瞬く音

森の中から梟の鳴き声、羽ばたきの音

木々の揺すり重なり合わせる葉音

離れたところにある川の流音

岩に破砕する水音


暗闇の静寂

耳が研ぎ澄まされる


君が僕の耳元に手を添えて唇を近づけて囁やく


「夜の山の中って、結構音がするのね」



そうだね

僕も今、同じことを思っていたよ


「テントに入ろうか」


毛布に包まる体を起こして君が言った


すっかり弱々しく赤く暗く透けてきた焚き火はそのままにしてテントに向かった


テントの中

エアベッドの上に座る君と僕

ふたりきり


僕はギターを取り出して

胡座をかいた膝にギターを乗せる



ゆっくりとスローテンポの曲を弾くと

吐息を吐くように君が歌う


僕が爪弾くギターに合わせて

君が吐息を吐くように甘い声で歌う




夜、山の中

暗闇

その歌は

甘美な旋律

ふたりきり


奏でるテントの中に

月明かりが広がる

月影に重なる君と僕

甘く響く歌声

甘美の旋律

奏でる歌は


愛の歌

















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