(二)蛭ヶ小島
頼朝は伊豆の
頼朝の乳母・比企禅尼の娘婿である安達盛長が側近として仕えた。また、源氏方
に従ったことで所領を失っていた佐々木定綱ら四兄弟も従者となって奉仕した。
禅尼は頼朝の配流とともに領国の比企(埼玉)に戻り、金銭的にも頼朝の生活を
支えた。
・・・・・ 伊豆の知行国主は源頼政殿、国司は息子の仲綱であった。平治の乱
では平家側に付いて戦ったことで清盛の信頼が殊のほか厚くてな、頼朝を監視す
るには同じ源氏の一門の方が都合良かろうとして命じられたのじゃ。
蛭ヶ小島と言うが、これは島ではない。海に突き出た伊豆半島の山の中のことで
な、配流とは言うても比較的自由な生活が認められておった。もちろん政治的な
活動を除いてのことではあるがの。
比企の尼は頼朝の世話を安達盛長、伊東
だ。中でも安達盛長は自らも蛭ヶ小島に移り住んで、頼朝の家人となって世話を
したのじゃ。頼朝より十歳ほど
わきまえておったのでな、決して政治の表舞台に顔を出すことはなかった。
頼朝は伊豆で一番の豪族・伊東
戻った祐親は激怒し、平家への聞こえを恐れて
頼朝は同じく伊豆の豪族であった北条の館へと逃亡する。北条家の主・時政もこの頃は京に上っており、頼朝はここでも時政の長女・政子とあらぬ仲となった。
・・・・・ 伊東祐親は頼朝の討伐を命じたのだが、比企の尼から頼まれていた
祐清(祐親の次男)が烏帽子親であった北条時政の邸へと逃がしてくれたのだ。
京から戻った時政は、当然のこと頼朝を祐親に差し出そうとする。時政の正室は
亡くなってはおったが祐親の娘だったのでな。
しかし、すでに頼朝は政子とも出来ておったのじゃ。頼朝はまさに都の貴公子、
伊豆の山中では若い女にとって光輝く存在でな、「掃き溜めに鶴」と言っては
言い過ぎであろうかの。
この時、時政の嫡男・宗時が妹の政子に味方して頼朝を伊豆山権現に匿った。
宗時は以前より頼朝とは気脈を通じていた。北条は板東平氏、清盛と同じく
平貞盛に連なる平直方の
伊勢平氏に対しては不満が
焦った時政は、慌てて政子を伊豆国
を持ち掛けた。しかし見合いの当日、政子は館を抜け出して頼朝の元へと走っ
た。大雨の中をじゃぞ。
時政は初めは大反対していたのだがな、思いも掛けず源氏という貴種の玉が
に転がり込んできたことで、ここらで大勝負を掛けるのも悪くないと欲を掻いた
のであろうよ。思い直して、頼朝が
平治の乱で源氏が敗れた後も、東国では依然として在地豪族が所領を治めていた。
北条が源氏の
二条天皇が崩御して清盛が大納言に昇進すると、いよいよ東国に知行国体制を布こうと動き出した。武蔵、駿河、上総、下総、相模と、順々に平家の一族を国司に任命し始める。危機を感じた東国の豪族は互いに姻戚を結んで連携を強化するなど、反平家の機運が一気に高まっていった。
・・・・・ 東国武士とは言うても源氏の一族は
くらいでな、土肥、秩父、上総、千葉、三浦、大庭などの有力豪族は平将門
の乱の後、桓武平氏・良文の子孫が各地で武士団を形成したものじゃ。
即ち坂東の豪族はほとんどが平氏だったので、分かり易いように居住地を
にしておったというわけだ。そこに清盛が京から身内を国司に送って坂東を
治めようとしたのでな、「清盛なんぞの伊勢平氏は元を
と反撥が起こったのだ。
今でこそ源氏と平氏が対立しているように言われておるがな、昔の東国では
必ずしも争っていたわけではない。あの八幡太郎義家も、源頼義と平直方の
娘との間に生まれておるのじゃからな。
直方は昔(一〇二八年)、平忠常が房総で乱を起こした時、京から追討使と
して派遣されたのだが期待を裏切る結果に終わってしまう。これを後任の源
頼信が平定してくれたのでな、直方は娘を頼信の嫡子・頼義に嫁がせた。
それ以来、坂東の豪族は東国の国司を歴任した頼義や義家ら源氏の一族と、
主従の関係を結ぶなどして親しく付き合ってきたというわけじゃ。
北条館には後に
集まり、頼朝を囲んでは巻狩り(武芸訓練)なども行われるようになった。
また、公家の三善康信(乳母の甥)からは、弟の康清を通じて京の情報が定期的に
もたらされていた。
この頃、
・・・・・ あれは四宮の近臣であった藤原
伊豆に送るよう仕組んだ狂言だったのじゃ。確か、「神護寺興隆のため
の寄進を上皇に強請した」とかいう訳の分からん罪であったかの。
儂は頼政殿を棟梁とする渡辺党の一味なのでな、平家に怪しまれんように罪
を着せられて頼朝の元へ送り込まれたというわけじゃ。
頼朝? 当時は仇討ちや挙兵のことなど
流人生活も十五年近くになれば、平穏な日々を過ごして特に不満もなかった
のではないか。諦めの境地だったのかも知れんがの。
そこで儂は四宮の心中や、今は亡き義朝の無念などを語っては頼朝に挙兵を
促してやったわい。
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